第24話「総督の宣言」

ゴンサロ・ピサロは、兄やインカ帝国よりも広大な領地を掌握する事になった。

ゴンサロ配下の者たちからは、スペインから独立し建国を勧める声までもあがってくるほど、脅威的な勢いを持つようになった。

 

しかし・・

たった1人の交渉人の登場により事態は一変していくことになる。

新たな副王は軍隊を持たず単身で新大陸に乗り込んできた。

《ペドロ・デ・ラ・ガスカ》、彼の名と賢さは後世まで語り継がれる事になる。

 

 

-1547年12月 バルディビア邸大広間-

バルディビアは一同を集める宴を開いた。

バルディビア「皆に折り入って話がある。

今、この新大陸で悲しいことにスペイン人同士が争っておる。嘆かわしいことに、アルマグロ一族に始まり、今度はピサロ一族が政府と衝突し、争いが絶えない。

これまで私が中立の立場を保ってきたのは、先住民との問題が主な理由であり、争っている勢力の方々にも事情を汲んでもらっていたからだ。

ただ中立であったもう一つの理由は、私のもとには各勢力に所縁のある方々が多く派遣されていたためでもある。

実際、南方探検のために加わっていただいていた最中、新大陸では内紛が起こり、心を痛めた方も多かったであろう。もちろん、これまで私はこの地を出て、懇意にしている方々の救援に向かうことをお止めはしなかった。

しかし、ここで私は宣言しよう――此度の新副王、ペドロ・デ・ラ・ガスカ殿を支持する。」

周りの者達はざわつき出した。

特にピサロ派の流れを汲む者達には緊張が高まった。

 

「ピサロ一族の派閥から派遣された方々はご心配であろうが、先に言っておく。

ここでゴンサロ殿につくことを表明されたとしても、

咎めはしない。

もちろん戦地では敵同士にはなるが、今まで力を貸してくださったよしみもある。

旅路の為の資金もお渡し致そう。」

 

「私はバルディビア殿にこれからも加わらせて頂く!」

1人の文官らしき男が声を上げた。

 

ガスパル「ほう、ホス殿がいの一番に声上げたぞ。

どうするよ、お前らは?」

ガンガス「俺は血がたぎる戦場があるならば

どこでも構わぬ。」

 

セペダ「相変わらず、そんな理由ですか?笑」

 

バルディビア「ワシもピサロ一族の長兄フランシスコ様には大分お世話になった。

ただ、ここではっきりとガスカ殿についた根拠を話そう。

正直異母弟のゴンサロ様の行動は、人として目に余る。

配下のカルバハル殿もそうではあるが、必要以上の非人道的な噂も度々耳にしておる。

インカ王妃はゴンサロ殿に陵辱されるのを嫌い、汚物を身にまとってまで抵抗したという。

しかし、ゴンサロ殿はそれも意に介さず拐かし、四肢を切り刻んで川に捨てたと聞いておる。

その様な人物が、新大陸の主として適切であろうか?!」

 

セペダ「うえ・・狂ってますね・・

どう育つとそんな事が出来るんですかね?」

 

ガスパル「人の趣向というのは、時に

想像を超えるものよ。」

 

バルディビア「そしてガスカ殿を支持、

いや政府を支持する理由を述べる。

貴君らも耳にしているだろうが、

新大陸の有力者達が次々とガスカ殿への協力を表明しておる。

なぜガスカ殿を既に多くの者が支持されているのか?

先の副王とは違いガスカ殿は非常に寛大な方だとワシは感じた。

もしこちらにつけば、今まで反政府側についた者も免罪とし、それだけでなくその者達にも報酬を約束するとの事じゃ。

この寛大な処置は、多くの者を抱える身としては実に有り難く、自信を持って皆を導ける。」

アギーレ「それは有り難いのう。

ワシは既に東の地を任されておる。

そこでも多くの縁が形成されておる為、如何したものかと思うておったわ。

まあ、どちらにしてもペルーはペルー、チリはチリじゃ。」

 

セペダ「こんなにも高らかに有力者の方々に意思表明されては、出て行くなんて、言えませんねぇ。」

 

ガスパル「ほう、お前は出て行くつもりなのか?」

 

セペダ「いえ、私は残る確率80%ですね。ビジャグラ家の宴会が楽しいもので。」

 

ガスパル「そうか。」

 

バルディビア「またガスカ殿の度量の広さや叡智にワシは感服しておる。」

 

バルディビア「どうやら名だけが書かれた白紙の勅許状を用意しているとの事だ。

なんとも粋な計らいではないか?

ガスカ殿に早めにつけば良い報酬も期待できるであろう。」

 

エレロ「あの様なものまで用意しておられるとは・・

新副王は商売上手ですね。」

 

カスティニャダ「しかし、相変わらず恐ろしい情報網よ。

この段階でここまで詳細な情報を仕入れているとは。」

 

バルディビア「パナマ周辺、ペルーの各地でもガスカ殿の側につく訳は納得じゃ。

そして、極め付けはあのワシらを悩ませた新法廃止を明言された。」

 

「おおおぉ。」

 

アギーレ「おお、それは助かるのぅ。」

 

バルディビア「最後に脅す訳ではないが、

ゴンサロ殿の近しい者達すら

ガスカ殿の側についたのには大きな理由もある。

それは、従わなければ15000の兵と何十隻の艦隊が派遣すると明言されておる。

本国が本気になればこのぐらいの事はするであろう。

流石にワシはその軍事力には抗うつもりはない。」

 

ガンガス「15000の兵だと・・想像もつかない数よ。

既に政府軍についた者達も合わせれば、

どう考えても戦にならんな・・」

 

ガスパル「ガハハ、流石のガンガスもそんな負け戦には乗らぬか。」

 

バルディビア「またこの場を借りて、まだ済んでいなかったキラクラの戦いの論功行賞を述べる。

ガスパル・オレンセ殿、1500人騎馬兵長へ昇格。

ディエゴ・ガルシア・エレロ殿、500人砲兵長へ昇格。

アロンソ・デ・コルドバ・ゴメス殿、チリ総督府の警護長、かつサンティアゴの先住民を管理するエンコメンデロ(管理人)とする。

ホアン・デ・ガンガス殿~」

 

「えっ?!サンティアゴのエンコメ・・」

セペダは思わず開いた口を急いで閉じた。

ガスパルは苦虫をすり潰した顔をした。

 

バルディビア「ワシからは以上である。

それでは、この宴盛大に楽しんでくだされ!」

 

 

バルディビアはテーブルにつくと、

1人の男が近寄ってきた。

 

「失礼致します、バルディビア様。

少々宜しいでしょうか?」

 

バルディビア「アロンソ殿か?どうした?」

 

アロンソ「ここでは少々・・」

 

バルディビア「気にせずとも良い、申せ。

ここにはワシの右腕のアルデレテしかおらん。」

 

アロンソ「それでは失礼します。

論功行賞の件ですが。何故私めに、警護長の位だけでなく、エンコメンデロまで?」

 

バルディビア「不服であったか?」

 

アロンソ「滅相もございません。

ただ、先の戦では失態も犯しております。

前線で最も活躍したガスパル殿を差し置いて、

あの様な評価をされては。」

 

アルデレテ(バルディビア様は、ガスパルの様な粗野な者とは距離を置きたがっていたからな。まあ、アロンソを囲うのには他にも理由があるが、順当な評価とも言える。)

 

バルディビア「アロンソ殿の品位に見合った報酬よ。

要人来訪の際も失礼がない様に、警護長は風格のある者にかねがね任せたいと思っておったのだ。

ましてや、エンコメンデロを統治する点では貴君の方が相応しいであろう。

ワシは貴君のことを高く買うておる。

これからもよろしく頼む。」

 

アロンソ「しかし・・」

バルディビア「もしや・・ゴンサロ殿の所へ行かれるのか?

止めはせぬ。」

 

アロンソ「いえ、その様な事は・・」

 

バルディビア「なら問題ないであろう。

よろしく頼むぞ!」

 

アロンソ「ハハッ。」

 

アロンソが席を離れるとアルデレテがバルディビアに話しかけた。

「今回ばかりは奴に感謝しないとな。」

 

バルディビア「そうであろう。

あやつの情報がなかったら、

ガスカ殿にこれほど早く支持を表明するには至らなかったであろう。」

 

 

-数日前サンティアゴ近郊 11月18日-

「おい!誰か倒れておるぞ!!」

 

身体中に傷を負い、

かなり重症を負っている者たちが横たわっていた。

 

その中のリーダーらしき男が上の空で呟いた。

「バ、バルディビアさま・・」

 

「総督の名を呼んでいる様だが・・」

 

「とりあえず運ぶぞ。」

衛兵達は慎重に搬送した。

 

バルディビア「カセレスではないか!

どうしたその様な姿で・・」

カセレス「死ぬ前に貴方に・・お伝えしなくてはいけない事が・・新副王が・・」

 

バルディビア「まあ、待て。」

 

バルディビアはカセレスの身体を眺め所々を触ると、

額に手を置いた。

 

バルディビアは笑みを浮かべた。

「安心しろ、これは病だ。

お前はまだまだ死ねぬぞ。」

 

カセレスは半笑いになりながら

「もう助からぬと思いました。」と声を漏らした。

 

カセレスは搬送されながらも、

ペルーの情勢や新副王の情報について

バルディビアに話した。

 

バルディビア(でかしたぞカセレス・・)

 

カセレスは数日間寝込んだ後、

再びバルディビアと話した。

 

バルディビア「聞き間違いか?

ウジョアとアタカマ砂漠で合流したと言ったか?」

 

カセレス「はい、ウジョア様には道中お世話になりました。

さらに、サンティアゴまでの道中の

護衛まで付けてもらいました。」

 

バルディビア「その者たちは今どこだ?」

 

カセレス「残念ながら・・途中、

コピアポの谷で原住民に襲撃され、

散り散りになってしまいました。」

 

バルディビア「・・カセレスよ、

お前が襲われたのは、ウジョアの差し金だろう。」

 

 

それから、数日経ってウジョアの裏切りがより明白となった。

1545年9月にパステネの大規模な航海が開始されていた。

バルディビアは皇帝からチリの統治者としての承認を得る必要があった為、

カルロス一世との架け橋となっていた

ウジョアに手紙を託す事になった。

 

同年12月1日にパステネが航海を終え、

サンティアゴに到着したが、交易品もなければ、

クルーもいなく、借りてきた船で帰還するという事態に陥っていた。

航海中にウジョアがクーデターを起こしていたからである。

 

パステネ達は9月28日にカヤオに到着したが、

3日後にモンロイが伝染病により亡くなってしまう。

その機に乗じ、

ウジョアは皇帝に届けるはずの手紙を開封し、

皆の前で読むと嘲笑し破り捨て、

パステネは全てを奪われた。

 

こうしてバルディビアはカセレスとパステネの帰還により、

ペルーの内情とウジョアの裏切りを知る事となった。

 

 

-1547年12月6日バルパライソ港-

バルディビア「留守は頼んだぞ、フランシスコよ。」

バルディビアは決意を固め、

側近の者たちを連れペルーへ向かった。

同行したのは、アルデレテ、オロ、カセレス、ポゾ神父、他使用人などを合わせて8名である。

 

バルディビアは、ガスカとゴンサロの争いが
戦らしい戦にはならないと踏み、

自ら少人数でガスカのもとを訪れることを選んだ。

 

留守の間、チリ総督代理が誰になるかは話題の種となった。

 

本来ならば、バルディビアの最も信頼出来る者であるヘロニモ・デ・アルデレテが代理としては順当な位置ではある。

しかし、ガスカへの忠誠を示す為、

かつバルディビアとしては、

ガスカとアルデレテをこの機会に引き合わせておきたいという考えもあり、共にペルーへ向かわせる事になった。

 

また、これだけ少人数で向かうという事は、

チリの現状にそれだけ人員を割かなくてはいけない事を

政府に強く印象づける狙いもあった。

そしてバルディビアとしては、

せめて自身を含め、腹心だけでガスカに会いに来たという覚悟を示す目論見もあった。

 

そうなると地位や権力、統率力、資質の点で、

ある4人の者が適任者として噂された。

1人は、フワン・ゴメス・デ・アルマグロ《都の統治者》と呼ばれる程影響力のある人物で、チリの(※注1)マセ・デ・カンポ兼、(※注2)アルグアシル・マイヨールである。

 

もう1人は、サンチョ・デ・ラ・ホスというフランシスコ・ピサロの秘書をやっていた人物でアタワルパの身代金の分配など財政面で力を発揮し、スペイン宮廷にも顔が効く人物である。

 

そして、《双璧のフランシスコ》と呼ばれる2人のフランシスコの4人が有力視されていた。

 

最終的にバルディビアが選んだのは、

フランシスコ・デ・ビジャグラであった。

 

一方、フランシスコ・デ・アギーレに関しては、

先立ってビジャグラを代理としてバルディビアへ強く推していた。

 

当主がピサロ一族討伐へ向かう留守の間、

ピサロ派の者がチリを統括するとなると

良からぬ事を考える者が出るやもしれぬ、

と予めアギーレはバルディビアへ伝えていた。

 

ただ、フランシスコ・デ・ビジャグラは野心に溢れる人物と捉える者も多く、

サンティアゴに残されたバルディビアの直属の配下だけでなく、様々な派閥の幾人かは、この抜擢を不安視していた。

 

たった8名でペルーへ渡ったバルディビアの豪快さは

彼ならではのカリスマ性ではあるが、

仮にその間にクーデターでも起きれば

多くの者が謀叛人に吸収される事になる。

 

そしてチリ全土を巡りペルー同様、血みどろの内紛に突入する事になるだろう。

 

 

-サンティアゴ教会

聖堂内には告解室と呼ばれる

扉が二つ付いた小部屋があった。

そこへ1人の司祭が入っていった。

名をフワン・ロボといい、聖職者とは思えぬほど

筋骨隆々な恵まれた体格をしていた。

 

サンティアゴ周辺の戦で武器を手に取り

戦った事もあるが、バルディビアは

その軍事行動には触れる事はなかった。

 

さらにバルディビアは

原住民の改宗者と教会の管理者として

皇帝へ推薦する程、彼を贔屓していた。

 

ロボ司祭「さて、今日も迷える子羊の告白を聞きましょう。」

 

1人の男が聖堂へ立ち寄り、告解室へ入っていった。

 

ロボ司祭(この方は・・)

 

彼は自身の抱える問題を告白した。

 

「あなたの罪を許します。

神と精霊と父の名に於いて・・」

 

 

 

(※注1)マセ・デ・カンポは、陸軍司令官の様な役職であり、国王から報酬を受けた8人のアルバラデロス(ハルバートを担ぐ護衛)が常に側にいた。

 

(※注2)アルグアシル・マイヨールは、保安長官の様なもので、法と秩序を維持するための重要な役職だった。日々の裁判に出席し、逮捕命令を執行する責任があった。

細かく禁止事項も決められており、囚人から賄賂を受け取る、規定とは異なる方法で逮捕、理由もなく被拘禁者を釈放する事など、務める者には厳格な人物が求められた。

アラウコの叫び/本編

寄付(donation)

コメント