第32話「炎の馴れ初め」

-3日後の夜-

バルディビアは家を空けて、

アルデレテと共に要人たちとの宴へ出向いていた。

 

ウーゴ「よし、バルディビアは今頃夢の中であろう。

火矢の用意をせよ。」

 

「ヘイ!」

 

ウーゴ「バルディビアの敷地が広いのが幸いしておるわ。

火が上がったとて、周りで気付けるのは

あの女の家ぐらいであろう。

やれ!!」

 

ウーゴの手下達は一斉に火矢を放った。

ボゥ!!

 

バルディビアの家は炎に包まれた。

 

タンボ「イネス様、隣の家が火に包まれております!!」

 

イネス「何だと?!」

 

イネスは窓を覗き込むと、バルディビアの家を

何者かが襲撃してゆくのが見えた。

 

イネス「タンボ、私の剣と防具を!」

ガシャーン!

 

バルディビアの家は炎上し崩れかけているが、

一向に誰も出てこない。

 

「ウーゴ様、どうやら中には誰もいないようです。」

 

ウーゴ「しまった・・留守だったか。

まあ良いわ。

お前ら、金目の物は好きに奪え!」

 

「へへい!」

 

「貴様ら!

あの人の物を持ち去る事は許さない!」

炎に照らされ赤い髪が燃え盛るように輝き

まるで炎の女神の様に剣を構えるイネスの姿があった。

ウーゴ「あの女!!

飛んで火に入るとはこの事よ!」

 

イネス「フッ、随分芸のないセリフだな。

素行から言動まで全て三流。」

 

ウーゴ「ぬぬぬ・・気取りおって!!

やれ!あいつを捕えろ!

俺たちでたっぷり可愛がってやろうぞ!」

 

ウーゴの手下達は一斉にイネスに襲いかかった。

 

イネスは1人2人と鮮やかに切り捨てていく。

 

ウーゴ「女の分際で!!矢を放て!!」

 

イネス「今だ!」

ドシュドシュン!

 

物陰からタンボ達使用人たちが槍を投げ、矢を構えた物達が串刺しにされて倒れいった。

 

 

-フランシスコ・デ・アギーレ邸-

一方、バルディビアは自身の家が襲撃されてるとは

露知らず、宴を勤しんでいた。

 

アギーレ「バルディビア殿、

様々な派閥間の争いが目まぐるしい昨今ですが、

私は貴方とは派閥の域を超えて

個人的に話をしたいと思うておりますのじゃ。」

 

バルディビア「その様な大胆な発言を

其方から聞けるとはな、噂通り豪快な方であるな。

実はワシもパビアの戦いでの其方の活躍から

一度じっくり話したいと思っておったのだ。」

 

アギーレ「それは光栄ですな。」

 

バルディビア「最近、急用が重なりまして、

今宵の宴に参加できぬことを悔やんでおったが、

なんとか顔を出すことが叶い、まことに望外のことであった。」

 

その時だった、ふとバルディビアは

妙な雰囲気を察知しそちらに目をやった。

 

アギーレ「ん?どうかなさいましたか?」

 

バルディビア「いや、他に見知った顔が幾人かおるなぁと思いまして。」

 

バルディビアが視線をやった数十メートル先には、

苦々しい顔をして彼を見ているウジョアが立っていた。

 

ウジョアはバルディビアと目が合うと

慌てて顔を背けた。

ウジョア(なぜここにバルディビア達がおる?ウーゴめ、今夜決行するといっておったはず・・念の為口封じせぬばいかんか・・)

 

アギーレはバルディビアの雰囲気に

妙な空気を感じた。

 

アギーレ「バルディビア殿、

もし他にも挨拶したい方がいらしたら

遠慮なく言ってください。

私はいつでも貴方とお話しする時間は取れますので。」

 

バルディビア「かたじけない。

一旦、席を外します。」

 

そう言うと、バルディビアはアギーレの席を離れた。

 

バルディビアはアルデレテに近寄り口を開いた。

「アルデレテよ、何か妙な胸騒ぎがする。」

 

その刹那、見知らぬ男が2人の前に現れた。

 

「バルディビア様とお見受けします。

ディエゴ・ガルシア・デ・カセレスと申します。

貴方様のお耳に入れたい事があり。」

 

バルディビア「お初にお目にかかる。

どうしたのかな?」

 

カセレス「ここでは少々・・」

 

バルディビアはアルデレテを連れて、カセレスと人気のない場所に移動した。

 

カセレス「私は信仰の関係で独自の情報網を持っております。」

 

アルデレテは怪訝そうな顔した。

 

カセレスはバルディビアに家が襲撃に遭っている事を教えた。

バルディビアはその話を聞き、イネスの顔が浮かんだ。

 

バルディビア「カセレス殿よくぞ伝えてくれた。

おってお礼をさせてくれ。」

 

アルデレテはバルディビアに小声でで話しかけた。

「お待ちくだされ。

あまり面識のない者の言を信用なさるのですか?

しかも異教徒のようでしたし・・」

 

バルディビア「いや、先程のワシの胸騒ぎはそれであろう。」

 

カセレス「バルディビア様、私も同行させてもらえませんか?

外に私の私兵も待機させております。

良かったらお使いください。」

 

アルデレテ「ちょっと待て!

手際が良すぎる、貴君は何か企んでるのではないか?」

 

カセレス「はい、企んでおります!

今夜襲をかけている者たち、ひいてはその背後にいる者たちは、私の商売の邪魔なのです。」

 

アルデレテ「なんとあからさまな・・」

バルディビアは少し間を置き、口を開いた。

「潔い物言い、気に入った!」

 

アルデレテは少し不満げな表情をしている。

 

バルディビア「アルデレテよ、この様な御仁は信用できるものよ。」

 

アルデレテ「はぁ。」

 

 

バルディビア達はアギーレの元に駆け寄る。

 

バルディビア「アギーレ殿、

せっかくの宴もっといたかったのが火急の用が出来てな。」

 

アルデレテ(バルディビア様・・自分より位の低い人物にあんなに深々と頭を下げている。よほどあの女性が気になるのか・・)

 

アギーレはバルディビアが上体を深く傾けて謝罪を述べていることに少々動揺しながら、問いかけた。

「バ、バルディビア殿、どうなされた?

何か力になれる事があったらおっしゃってくだされ。」

 

バルディビア「お心遣い感謝致す!

己でなんとかなりますで、

また改めて一献酌み交わしましょうぞ!」

 

そう言うと、バルディビアはアルデレテを連れて

アギーレ邸を早々に後にした。

 

アルデレテ「バルディビア様の住居に夜襲するとは・・

もし、この件が本当であるならば

この件はこれで終わらせませんぞ。」

 

バルディビア「ああ。」

 

ウジョアはバルディビア達が外に出て行くのを気づいた。

ウジョア(あれはカセレス!あのごうつくばりめ、今度はバルディビアにつくつもりか?勘づかれた可能性が高いな・・)

 

ウジョアは人を呼び、何かを指示をしている様だった。

 

 

バルディビア「バモーッ!」

一方、バルディビアは、アルデレテ達を引き離し、

単身、馬を飛ばしていた。

 

パカラパカラ

 

アルデレテ(バルディビア様がこんなに焦っておられる姿、初めて見たわ・・)

 

カセレス(あの2人早すぎる・・)

アルデレテよりさらに後方にカセレスの一団が、必死に彼らを追っていた。

 

 

バルディビア「イネス殿!!」

 

バルディビアの家は焼け崩れ、

そこにウーゴと対峙してるイネスの姿があった。

 

「貴様!!」

バルディビアは、恐ろしい速さで馬を走らせ、

ウーゴに詰め寄ろうとした。

 

バルディビアは無数の火花に気付いた。

 

咄嗟に馬の向きを変え、

イネスの方へ向かった。

パンパンパン!

 

その時だった、

どこからともなく銃声が聞こた。

 

バルディビア馬から勢いよくイネス目掛けて飛んでいた。

バルディビアの身体は銃弾をかすりながら、イネスを覆う様に倒れ込んだ。

 

チュンッ!

 

アルデレテは、予めバルディビアの背後に盾を投げ込み、銃弾を防いだ。

 

バルディビアより、5馬身ほど遅れて到着したアルデレテはあたりを見渡した。

どうやらウーゴと残り手下たちは、皆銃弾を受け絶命していた。

 

アルデレテ(口封じか・・

とは言え、バルディビア様にも銃口を向けておったな・・)

 

バルディビア「大丈夫か?」

イネスは無言で頷いた。

 

アルデレテは銃声の鳴った方へ駆けていく。

 

バルディビア達は起き上がり辺りを見渡した。

 

そしてバルディビアは、転がる死体に目をやると

多くもの者が同じ様な太刀筋で絶命している事に気が付いた。

 

バルディビア「これは・・其方がやったのか?」

イネス「剣の心得があるもので・・」

 

バルディビア「凄まじいのぅ。

この様な使い手、我が配下にもそうはいない。」

 

バルディビアはイネスの強さに感嘆し、

力強くイネスの腕を握った。

 

イネス「っ痛・・」

 

バルディビア「すまぬ・・

とりあえず、手当てをせねば。」

 

しばらくすると、アルデレテがバルディビアの元へ戻ってきた。

 

アルデレテ「バルディビア様!

申し訳ございません。

1人捕まえたのですが

その直後奴らから銃撃を浴び、

殺されてしまいました。」

 

バルディビア「そうか。」

 

パカラパカラパカラ・・

やっとカセレス一向が到着したが、既に何もかも終わっていた。

カセレス「何もお役に立てず申し訳ございません。」

 

バルディビア「何を言っておられる。

こんなにも早く殲滅できたのは、貴君の助太刀があったからですぞ。」

 

カセレスは、その言で察した。

「早く殲滅・・なるほど。私共が加わった事で、向こうの背後の力が作戦を変え、口封じを・・」

 

バルディビア「ほう、カセレス殿とワシは

意思疎通が容易な間柄になれそうじゃのぅ。」

 

カセレスは、謙虚でありながら上品な笑みを見せた。

 

アルデレテはカメレオンの様な大きな目を細め、口を歪めた。

 

カセレスは改めて辺りを見渡した。

「そちらの方の使用人たちも深手を追ってる者も何人もいる様ですね。

せめて、私どもに彼らの手当てをさせてもらえませんか?」

 

バルディビア

「ほう、気が効くのぅ。よろしく頼む。」

 

カセレス「かしこまりました。」

カセレスたちはイネスの使用人達の手当てをすぐさま始めた。

 

 

イネス「バルディビア様、

貴方の家がなくなったのは、私のせいでございます。」

 

バルディビア「気にするな、

ワシは幾つも家や土地を持っておる。」

 

イネス「こんな事ぐらいしか、今はお返しできませぬが。

今夜は私の部屋でお休みください。」

 

バルディビア「お気遣いは無用。

ワシはすぐそこのアルデレテの家に泊まりますので。」

 

アルデレテは表情一つ変えず即座に言葉を返した。

「バルディビア様、

生憎私の家は引っ越ししたばかりで、私一人しか寝れませぬ!」

 

バルディビア「そ、そうか・・

ではイネス殿お言葉に甘えて、

其方の傷の手当てを兼ねて、泊まらせていただく。」

 

 

-イネスの部屋-

イネス「・・っ。」

バルディビア「すまぬ。少々強かったかの・・

包帯がなくなったか。」

 

イネス「予備がありますので、私がとってきます。」

 

バルディビアは立ち上がろうとする、

イネスを押し留めた。

 

バルディビア「無理をしてはいけない。」

 

それでも立ち上がろうとするイネス。

 

ガタンッ!

 

イネスは立ち上がったが、

体制を崩しバルディビアに覆い被さる様に倒れ込んだ。

2人は抱き合う様な体制になり、

しばらくの間見つめ合った。

 

焼け焦げた匂い、血の乾いた匂い、身体の痛み

互いの重なる鼓動の高鳴りにかき消されてゆく。

 

体温の暖かさが混ざり合い、互いを縛っていた何かが溶けていった。

 

イネスはゆっくり、そして強く

バルディビアを見つめると

情熱的にキスをした。

 

 

ー1549年コパカバナ イネスの部屋ー

必死に馬を懸け

君に近づく毎に

私の気持ちが確信に変わってゆく

 

凛々しい眼差し

ぶっきらぼうな言葉

時折見せた微笑

色彩豊かに私を包み込んでゆく

 

炎に照らされた君は

アテネを凌ぐ美しさ

滴る血さえ愛おしい

 

近づく唇に時は流れ出し

初めて得た安らぎ

 

運命の巡り合わせ

作られた道は

君と触れ合えば

形を無くす

 

縛られた世界があればこそ

有り難みを感じるものなのか

されど、このまま永遠にと

君と重なる度に思う

 

親愛なるイネス・スワレスへ

ペドロ・デ・バルディビアより

 

——————————————–

イネスは手紙を読みながら笑みを浮かべていた。

思えば、

アタカマ砂漠でも同じ様な事があった

 

あの人が丁度いない時に、ホスの一味に襲撃を受けて

あの時は、あの人がいなかった事が嬉しかった

その後も私を手当てをしてくれたな

 

炎が付きまとう思い出ばかりだけど、

私は幸せだった

 

今だに私は笑顔の方が少ないけれど、

少しでもそんな瞬間があるだけでいい・・

 

 

イネスは幸せそうな表情で

自身の書斎に手紙をしまった。

 

イネス(そろそろあの人がここに到着する頃だな。)

 

ダダダダッ

 

外ではヤナクナ達が走り回っている足音が響き出した。

 

イネス「騒がしいな。」

 

ダン!

イネス「何だ?!

どうしてお前がここに?!」

アラウコの叫び/本編

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