第31話「紡がれる出逢い」

ー数年前クスコ バルディビア別荘ー

バルディビアはラス・サリナスの戦いの後、

一時ではあるが穏やかな暮らしを送っていた時期がある。

 

アルデレテ「バルディビア様、

遂に内戦のかたがつきましたね。」

 

バルディビア「ああ、ひとまずはゆっくりできるな。」

 

バルディビア達が会話している時、

隣の区画で先住民達を仕切ってる女の姿が見えた。

 

バルディビア「あの者は、ワシの隣人の様だが

毎度随分的確に指示をしておる。」

 

アルデレテ「あの者は、

夫を追いこちらの大陸に渡ってきた者です。」

 

バルディビア「夫らしい者は見かけた事がないが・・」

 

アルデレテ「ラス・サリナスで夫は戦死した様で、

子もおらず、

残されたのはエンコミエンダだけの様です。」

 

バルディビア「それは不憫であるのぅ。

ただあれだけの美貌だ、男どもはほっとかぬであろう。」

 

アルデレテ「あまり社交的でなく、言い寄る男は居ない様です。

それにあの美しさ、並の男では近寄り難いでしょう。」

 

バルディビア「なるほどのぅ。

夫を追い新大陸に来たといったな・・

他を寄せ付けないのかも知れぬが、何とも情熱的ではないか。」

 

-あくる日-

「お前がこいつの主か?

女の分際でエンコミエンダを持ってるなんて

生意気な。」

 

イネス「なんだお前は?

何か様か?」

 

「なんだお前は、だと?!

俺はウーゴ・フェルナンデス・ペレス様だ。

お前んとこの奴隷が俺との土地に入ってきて

ウチの庭を汚した。

この責任どう取ってくれるんだ?」

 

タンボ「イネス様申し訳ございません。

まさかこの旦那様の敷地だと思ってはなくて。」

 

ウーゴ「アンタの身体で責任を取ってくれたっていいんだぜ?

そうすれば全て丸く収まる。」

 

イネス「ふん。

貧相な敷地で道と変わりない様な所だったんだろ。」

 

ウーゴ「なんだと?」

 

チャッ!

イネスは剣を抜いた。

 

ウーゴ「な、なんだやる気か?」

 

イネス「要は私に因縁をつけようとしておるのであろう。

敷地にウチの者が踏入ったくらいで、なんだと言うのだ?」

 

ウーゴ「貴様!

俺様にはあるお方がついてるんだ。

こんな事してタダで済むと思っているのか?」

 

イネス「女、女と蔑む割には腰抜けの様だな。

要は私の事が気に入らぬのであろう、

さあ剣を抜け。」

 

ウーゴ「この野郎、やってやろうじゃねーか。」

 

「何事ですかな?」

その時、1人の男が喧騒を聞きつけ割って入ってきた。

 

ウーゴ「な、何だてめえは?」

 

「ワシはこの方の隣でエンコミエンダを営んでる者だ。」

 

ウーゴ「何だ?タダの隣人が問題に首を突っ込んでくるんじゃない。」

「小耳に挟んだ所によると、

貴君の土地にこのヤナクナが入ったと。

その様な事で罰せられる法律はここクスコにはないと

聞いておるが。」

 

ウーゴ「ぐっ・・今はそんな事が問題じゃねえ。

俺に向けて剣を抜いた事を問うておるのだ。」

 

「様々な下劣な暴言も聞こえてきたが、

もし責める所があるならば婦女子に対して、

貴君の紳士的でない振る舞いの方であると思うが。」

 

ウーゴ「何だと?

俺様に楯突いた事を後悔させてやる。

覚えていろ!」

 

ウーゴはそう言うとすごすごとその場を後にした。

 

「隣人としての挨拶が遅れました。

私はペドロ・デ・バルディビアと申します。」

イネス「イネス・スワレスです。」

 

バルディビア「あの様な荒くれ者に対して、

一歩も退かぬ貴方の勇ましさは賞賛に値します。

ただ、余計なお世話ではありますが、

あの様な対応をされていては、

無駄に敵を作りここにも居づらくなってしまいますよ。」

 

イネス「ご忠告ありがとうございます。

けれど、居づらくなったらそれはそれまでです。

では、私は仕事があるのでこれで。」

 

そう言うと、イネスは自身の家に入って行った。

 

バルディビア「アルデレテが言ってた通りの者じゃのう。」

 

 

-翌日-

アルデレテ「ウーゴ・フェルナンデス・ペレスなる者に関して調べて参りました。

その名は奴の自称の様で、本名は只のウーゴです。」

バルディビア「貴族風の名を語り、

自分を大きく見せているという訳か。」

 

アルデレテ「はい。

特に役職についている訳でもなくタダのゴロツキです。

ここでの評判も悪く、迷惑している者も多い様です。」

 

バルディビア「何故その様な者が

野放しになっておるのだ。」

 

アルデレテ「それが問題を起こす度に

揉み消されている様です。

奴の後ろ盾にはある人物が・・」

 

バルディビア「誰だ?」

 

アルデレテ「あのアントニオ・ウジョアです。」

バルディビア「ウジョアじゃと?

しかし、何故あの様な者を庇い立てしておるのか。」

 

アルデレテ「その事なんですが、

ウジョアは汚れ仕事を行う者を

何人か囲っているという噂がある様です。」

 

バルディビア「そうか。

もしウジョアと繋がっているのであれば、

少々厄介だのぅ。」

 

アルデレテ「とイネスに関してなのですが、

彼女の祖父は<ベラ・クルスの兄弟>に属する家具職人だったそうです。」

 

バルディビア「地域によっては厳格な規律や伝統を重んじると聞いておるが、

彼女の人格形成にはその様な背景もあるのかのぅ。」

 

アルデレテ「また、その祖父が変わり者でして、

その影響でかイネスは子を授からなかったとも言われてます。」

 

バルディビア「なるほどのぅ。

色々と窮屈な人生を送ってきたのかも知れぬな。」

 

アルデレテ「何やら外が騒がしいですな。」

「イネス・スワレス!

お前に魔女の疑いがかけられておる、

おなしく連行されよ!!」

イネスの家の方から役人の叫ぶ声が聞こえてきた。

 

アルデレテ「さっそく何か仕掛けてきたみたいですな。」

 

バルディビアとアルデレテは外に出た。

 

バルディビア「どうなされた?」

 

「貴様何者だ!

この者を庇い立てする気か!」

 

「職務に熱心であるのは結構だが、落ち着きなさい。

私はペドロ・デ・バルディビアという者だが、

この者の隣人である。」

 

「ペドロ・デ・バルディビア・・

あ、あのバルディビア様でございますか?

そそ、それは失礼致しました。」

 

バルディビア「して何故この者が魔女の疑いをかけられておる?」

 

「ハッ。

ウーゴ・フェルナンデス・ペレス様の家にこの者の

使用人が侵入し、農作物を枯れさせた為でございます。」

 

バルディビア「このご時世にスペインの者が魔女裁判とはな、いつの時代の話じゃ・・

ワシの庭にも度々その者の使用人が足を踏み入れる事があるが、

ワシの庭の作物はスクスクと育っておるがの。」

 

「はぁ。」

 

バルディビア「この件は預からせてくれぬか?

ワシの方から上の者達には言っておく。」

 

そう言うとバルディビアは役人の手を握り、賄賂を忍ばせた。

 

「バ、バルディビア様がそうおっしゃるのであれば・・」

 

役人達はその場から立ち去った。

 

イネス「失礼しました。ウチのものが貴方様の敷地に・・」

 

バルディビアはイネスの言葉を柔らかく制した。

 

バルディビア「ハハ。

いやいや、貴女の使用人は一度もコチラへ入ってきた事はないです。

どうやらワシが魔女の様じゃな。

つい嘘を申してしまったわ。」

 

イネスは表情を変えぬままバルディビアに尋ねた?

「なぜその様な嘘を・・・・」

 

バルディビアは視線を落とした。

 

イネス「私の事を助けてくれたのですか?」

 

バルディビアは、改めてイネスの方を向いた。

「優秀な者が不当な目にあってるのは見過ごせなかっただけです。」

 

イネス「私が優秀?」

 

バルディビア「ワシは人を見る目だけはあります。

日々の貴方の行動を見てれば分かります。

まあ、少々人に対しては不器用な所もありますがな。」

 

一呼吸置き、バルディビアはイネスの目を見つめた。

「ただ、人によっては不器用さも魅力的に映るものです。」

 

イネスは目を逸らし呟いた。

 

イネス「私は子もなく、未来もない只の未亡人です。

貴方様は地位のあるお方の様ですが、

私の様な者を庇い立てしても、

良い事はありませぬ。」

 

「未来がない?」

 

バルディビアは空を見上げた。

「伴侶や子がいない事を言っておるのですかな?

それを言ったらワシとて同じ様なもの。」

 

イネス「失礼しました。

配慮に欠ける言葉でした。」

 

「いやいや、何も失礼な事はない。

ワシは家族だけが人生ではないと思うておる。」

バルディビアは人に希望を与える様な

落ち着いた声で語り出した。

 

「ワシには妻がいるが、家が決めた話。

逢いたい、話したい、共に酒を飲みたい

そう言った相手は自分で決める。」

 

バルディビアは片眉を上げて戯ける様な表情をイネスに向けた。

「おかしな事を言ってますかな?」

 

イネス「その様な発言をされては・・」

 

バルディビアは大声で笑い出した。

「ハハハハ!其方にその様な心配をされるとは。」

 

イネスはバルディビアが

花を咲かせた様に笑う姿に驚いた。

 

バルディビア「まあ、ワシも仕事はできるが不器用でな。」

イネスは口元に軽く笑みを浮かべた。

 

バルディビア「人は笑ってる方が多いに越した事はない。

互いに笑顔の多い人生を送りたいものですな。」

 

イネスは少し恥ずかしそうに、目を伏せた。

 

バルディビア「似た者同士、

隣人になったのも何かの縁

これからも仲良くしていきましょうぞ。」

 

 

-ウジョア邸-

ウーゴ「ウジョア様、生意気な女を懲らしめてくれるのではなかったのですか?」

 

ウジョア「その件なのだがな、その女の隣人が

ペドロ・デ・バルディビアだそうではないか?」

ウーゴ「何だと!!

あのバルディビアですと!

通りで余裕な面をしていたのか・・」

 

ウジョア「奴が庇い立てしてるとなると事はそう簡単ではない。

何かを丁稚上げようと上手く躱されるのおちよ。

ましてやあやつはワシらの政敵。

この問題は時期がきたら、ついでに晴らしてやるから今は堪えろ。」

 

ウーゴは身体を震わせた。

「な、納得いきませぬ!

それならば、私に何人か腕の立つ者をお貸しいただけませぬか?」

 

ウジョア「何を考えておる?」

 

ウーゴ「決まっているでしょう。

罠に嵌めるのが難しいのであれば、

強硬手段に出るまでです。」

 

ウジョア「確かに奴を早々に亡き者にすれば、

ホス様もお喜びになるだろう。」

ウジョアは引き出しから薬を取り出すと、

ウーゴに手渡した。

 

ウジョア「いつも通り失敗は死を意味する

誓えるか?」

 

「はい、いつも通り誓います!

危うくなったらこれで自害します。」

ウーゴはそう言うと、薬を掲げた。

 

ウジョア「もちろん飲まなくても、

捕まれば死の使いを寄越す、分かっておるな。」

 

ウーゴ「承知しております。」

 

ウジョア「余程腹に据えかねておるのだな。

3日待て、足のつかぬ者を用意してやる。」

アラウコの叫び/本編

Buy Me a Coffee

コメント