第28話「悪魔が憐れむ歌」

レモン

「ここにリマとその周辺の見取り図をお持ちしました。」

レモンはガスカに兵糧状況、

将や兵数などを詳細に説明した。

 

ガスカ「その話によれば、やはりゴンサロ達は

ハキハワナには全軍できておるようだな。

情報が確かなら、

残存兵数的に伏兵も潜ませるのもままならんであろう。」

 

アルデレテ「お待ちを!!

この方の言、果たして本当でしょうか?

あのカルバハルなら、

この様な毒を送り込ませる可能性もあります。」

 

アルデレテはレモンをジロリと見た。

 

アルデレテ「失礼だが、両手を挙げてみて下さらぬか?」

 

レモンは両手を挙げた。

 

アルデレテはレモンの周りを一周し、まじまじと眺めた。

「貴女の衣服が破れているのは何故だ?」

 

レモンはカルバハルとの一件を説明した。

 

バルディビア「凄い女性であるな・・

年老いているとはいえ、

あのカルバハルを失神させたのか?」

 

アルデレテ「随分奇想天外な話に感じますが・・

時に嘘とは大胆につくのが効果的。

これは用心した方が良いかと。」

 

カセレス「発言して宜しいでしょうか?」

 

バルディビア「ガスカ様、紹介が遅れました。

この者はディエゴ・ガルシア・デ・カセレスと言います。

文武に長け、商才もあり、信仰の関係で

独自のネットワークを持っております。

頼りになる部下の1人です。」

 

ガスカ「ほう、面白い者を囲っておるのぅ。

話を聞こうか。」

カセレス「失礼します。

おそらく、この方の話は本当である可能性が高いです。」

 

アルデレテ「何だと?

何を庇っておる?

貴様はこういうオナゴが好みなのか?

・・いや、失礼。」

 

レモンはこういった発言に慣れているのか、

アルデレテの言葉に動じる事なく

変わらず直立している。

 

カセレス「我が同胞に聞いた事があります。

ブロンドの髪に豊満な胸、組み技に長けた女性が

北の地におるという噂を。」

 

バルディビア「ほう、面白い噂じゃのう。」

 

カセレス「この方の言、証明するのは簡単な話だと思われます。

そうですねぇ、ニーニョと戦わせてみてはいかがでしょう?」

 

バルディビア「名案だな。

ガスカ様、今回私の配下随一の怪力の者を

使用人として同行させております。

言葉は辿々しい所がありますが、実力は確かです。

カセレスの案、如何でしょうか?」

 

ガスカ「ふむ、一理ありだな。」

 

バルディビア「ニーニョを連れて参れ。」

 

カセレス「ハッ!」

 

ペロ・ニーニョ「お、お呼び、で、でしょうか?」

レモンより2回りも大きい男がやって来た。

 

ニーニョはたどたどしく話すため

過小評価されがちであったが、

身体能力の高さを買われネイラの推薦で、

バカ・デ・カストロの元で仕えることになった。

チリのサンティアゴが苦境に陥った時、

モンロイが率いる輸送隊と共にバルディビアの元に派遣された。

 

バルディビア「そうじゃのぅ、こやつが見掛け倒しでない事をお見せしないとな。

ここまでに来る間、衛兵たちの話を耳に挟みましたが、

この居間にある先住民たちの崇めていた柱を他の場所に移動するとか。

ガスカ殿、おそらくこの柱の事ですよね?

余興と言ってはなんですが、これをあそこの扉まで

ニーニョに運ばせても構わないでしょうか?」

 

バルディビアの目線の先には、

インカ帝国の勇壮な戦士を形どった巨大な柱があった。

高さは成人男性3人ほどある。

 

ガスカ「それは助かるが・・

この柱は5人がかりでやっと運べる代物ですぞ。」

 

バルディビア「それなら問題なさそうですな。

ニーニョやってみよ。」

 

「おおお」

周りの者たちは驚きの声を上げた。

 

ニーニョは片手でひょいと柱を持ち上げた。

まるで像の中が空洞であるかの様に思えるほど、

軽そうに見えた。

カセレスはその光景を見て焦りながら、

ニーニョに叫んだ。

「お、おい!ニーニョ!

丁重に扱え!

両手で落とさない様にしっかり持って運ぶんだ!」

 

ニーニョ「わわわかり、ました。」

そういうと柱のテッペンを両手掴み、不安定な状態で運ぼうとしていた。

 

カセレス「お、おい!何をしてる?!

そんな事したら、柱が折れかねないだろ!

柱の真ん中を両手で持って運べ!」

 

ニーニョ「すす、すみません!」

 

そういうとカセレスの指示通りの持ち方に変えて、ニーニョは柱を運んだ。

 

そして、難なく柱を運び扉の前まで持っていった。

 

ドスン!

 

柱が床に接した時の音が紛れもなく、重い物体であった事を物語っていた。

 

ガスカ「凄まじい力よ。

待て・・本当にこの者とレモン殿を戦わせるのか?

体格からしても

まるで勝負にならない様に見えるが・・」

 

バルディビアはレモンを見た。

 

バルディビア「ふむ、

レモン殿は顔色一つ変えておりませぬ。

やる気のようですぞ。」

 

アルデレテ「勝敗の付け方は同じく、

どちらかが失神するまでやらせますか?

武器の使用、噛みつきは無しで如何でしょうか?」

 

ガスカ「妥当な所であろう。

レモン殿は異論はありますかな?」

 

レモン「いえ。」

 

カセレス「ルールは分かったな、ニーニョ?」

 

ニーニョ「わ、わかりま、ました・・」

 

バルディビア「それでは2人とも始められよ。」

ニーニョは相手が小柄な女性だろうと

気にする事なく、怒涛の勢いで殴りかかった。

 

シャッ!

 

レモンはニーニョの拳を躱わすと同時に足を出し、

ニーニョの体の一部を押した。

 

押されたことによりレモンの足にぶつかり、

ニーニョは自身の勢いが増してしまい、

踏みとどまる事が出来ず、うつ伏せに倒れ込んだ。

 

すかさずレモンは、ニーニョの背後から

右腕を首に巻きつけ、左腕で自身の右腕をロックした。

 

ニーニョは本能的にレモンの腕を外そうと試みるが、

レモンの腕は抵抗に応じながら数ミリ単位で

意図的に微かに動かし続けていた。

 

ニーニョの力は、

レモンの妙な動きにより逃され続けている様に見えた。

ニーニョが抗うたびに

レモンの腕はより深く相手の首へ食い込んでいった。

攻防が6秒を超えた頃、

レモンの腕は相手の首に対し

完全に隙間なく巻きつく形になった。

グリンッ!

ニーニョが白目を剥くと、

レモンは音もなく立ち上がった。

 

ニーニョは痙攣を引き起こし、

誰の目から見ても失神しているのが明らかだった。

 

バルディビア「勝負アリだな。」

 

パンッ!

 

レモンは

ニーニョの背中から肩にかけた部分を

思いっきり引っぱたき、

ニーニョの意識を取り戻させた。

 

ニーニョは意識を取り戻すと、

いつにもまして呆けた顔をしている。

 

アルデレテ「信じられん・・」

 

バルディビア「レモン殿。

私の配下の礼を逸する言や、

試す様な事をしてしまった事、

私からお詫び申す。

貴女がもたらした情報はどれも重要なものである為、

皆の者が慎重にならざるを得なかった。

許してくだされ。」

 

レモン「いえ。飛び込みできた者に対して、

当然の対応だと思います。」

 

バルディビア「ガスカ様、

私に400ほど兵をお貸しできませんか?

レモン殿の情報から考えて

カルバハルを捕らえてしまえばこの戦、

終わるでしょう。」

ガスカ「兵400で良いのか?」

 

バルディビア「はい。

また、こちらの損害もほぼなく、

カルバハルを捕らえて参ります。」

 

ガスカ「たいそうな自信だな。

何か秘策があるのかな?」

バルディビア「おっしゃる通りです。

既に種は蒔いております。」

 

ガスカ「ほう、良かろう。

兵の事ならば、

アロンソ・デ・アルバラドに相談すると良い。」

 

バルディビア「有難うございます。」

 

 

-ハキハワナ前線-

「久しぶりです、バルディビア様。

ラス・サリナスの戦い以来ですな。」

 

この者の名はアロンソ・デ・アルバラドと言い、

年はバルディビアより3つ下であるが、

共にフランシスコ・ピサロの元で頭角を表した1人である。

 

また、カスティニャダ達の主であったゴメス・デ・アルバラドの甥にあたる。

ゴメスがアルマグロ派であるのに対し、

アロンソはピサロ派に加わる事が多かった。

 

バルディビア

「活躍は聞いておるぞ。」

 

アロンソ・デ・アルバラド

「いやいや、バルディビア様には及びませぬ。

そう言えば、カストロ様の件残念でした。」

 

バルディビア

「お互いカストロには世話になったのぅ。」

 

アロンソ・デ・アルバラド

「ただ、何者かの助けで最悪の事態は免れたみたいで・・

もしや・・

いや、余計な事は言いますまい。」

オロは明後日の方を見上げた。

 

バルディビア

「ハハ、ワシは奴の無事を願っただじゃ。」

 

アロンソ・デ・アルバラド

「こやつは私の甥のフワン・デ・アルバラドと申します。

まだ年は若いですが、

皇帝と共にゲント市攻略を経験しており、

見どころがあります。」

 

バルディビア

「ほう、あのゲントを経験しておるのか。

頼もしいのぅ。」

 

「フワン・デ・アルバラドと申します。

叔父からバルディビア様のお話を幾度となく

伺っております。

此度の戦、勉強させていただきます。」

 

バルディビア

「芯が強そうだのぅ。

まあ、今回の戦はもう見どころはないかもしれぬの。」

 

フワン・デ・アルバラド

「はぁ。」

 

アロンソ・デ・アルバラド

「この者は!!」

 

アロンソ・デ・アルバラドは、

バルディビアの従者の1人を見るや驚きの表情を見せた。

 

アロンソ・デ・アルバラド

「丁度10年程前だったか、クスコに送った救援隊で見かけたな。

生きておったのか。」

ニーニョ「お、お久し、しぶりです。

アル、アル、アルバ、ラド様。」

 

バルディビア

「その様な昔の事、よく覚えておるな。

今は私の所で囲っておる。」

 

アロンソ・デ・アルバラド

「意思疎通をするのに難儀な者だったが、

力だけは異様に強かったので印象に残っておりましたわ。」

 

バルディビア

「なかなか重宝しておるぞ。」

 

アロンソ・デ・アルバラド

「ここに居ると言う事は。

バルディビア様の側近なのですか?」

 

バルディビア

「こやつは上手く言葉を話せないが、

話を理解していない訳ではない。

ま・・多少変わった思考はしておるがの。

ただ、分をわきまえておる。」

 

アロンソ・デ・アルバラド

「バルディビア様がお拾いになるくらいだ、

価値ある者だったのですな。

私もより視野を広く持たねば・・」

 

バルディビア

「人は使い様よ。」

 

アルデレテ

「バルディビア様、そろそろご準備を。」

 

バルディビア

「そうだな、始めるか。

兵達に旗を掲げる準備をさせよ!」

アルデレテ、カセレス「ハッ!」

アルデレテ達は兵達に黒い旗を掲げさせた。

 

バルディビア

「それでは行って参る!」

 

バルディビアは、アロンソ・デ・アルバラドから

借りた兵を率いて、カルバハルの軍へ向かった。

 

 

-コルドバ軍-

コルドバ軍はカルバハルの縦横無尽な動きに

呼応しながら、前進や後退を繰り返していた。

また、コルドバの軍にはネイラの姿も見られた。

 

コルドバ兵

「コルドバ様、

兵数400ほどの黒い旗をたなびかせた軍が

こちらへ向かってくる様です。」

ネイラ「頃合いですな。

丁度カルバハル殿が前線に移動しています。」

 

コルドバ「承知した。

者ども、旗を掲げよ!!」

 

 

-カルバハル軍-

「カルバハル様!!

コルドバ軍が何故か前方の政府軍と同じ

黒い旗を掲げています!!」

 

カルバハル「ヒョッボゥン!

あちらについたか。

政府の番犬だった者には、我が軍は刺激が強すぎたかのぅ。

皆の者、ワシに続け!この場から引くぞぉ。」

 

ドンドンドン!

 

「ぎゃー。」

 

「カ、カルバハル様!!

背後の軍までが黒い旗を掲げ、

こちらに発砲してきております!!」

 

カルバハル軍に銃を向けているのは、

ゴンサロ軍に潜ませていた、ベルガラ親子たちの軍であった。

カルバハル「ブラら~ぼぅ!何という正確な射撃。

あやつらワシの前では猫を被っておったな。

こんな素敵な劇を観たのは、数十年ぶり・・いや、

ついこの前も味わったか、最近ツイてるなワシ。」

 

ベルガラ親子達は、基本的にゴンサロ軍に配属されていたが、

カルバハルの目の届く範囲では、

並の銃兵の様な戦いぶりをし気取られぬ様にしていた。

 

「その槍、お借り致そう。」

カルバハルはそう言うと、配下の槍をもぎ取った。

 

「へっ?どうぞ、かしら」

妙な言葉遣いに呆気に取られている配下をよそに、

カルバハルは物凄い速さで槍を投げた。

ビョオン!

 

ゴシャッ!

槍はセバスチャン・ベルガラの頬をかすると、すぐ側の兵の頭蓋を貫き、一瞬で絶命させた。

カルバハル「※1)でぃすぱぁ~ろ・アラカ・べっさ!

感動のお返しはせんとな。」

 

「怪物が・・」

遠目で見ていたアルデレテは呟いた。

 

カルバハル

「さて、きみたちぃー!

あの銃兵たちはかなりヤバいぞぉ。

他は気にする事ないが、あやつらからは早々に距離を取れ。」

 

「カルバハル様!!

右翼から別の軍が迫っております!!」

 

カルバハル

「おっ、またワシを驚かせてくれるのかの?

なんじゃ・・あやつか。

まあ、あの暑苦しさは、

肌寒さを凌ぐ足しぐらいにはなるかの。」

 

パカラパカラ!

 

「カルバハル!!覚悟ー!!」

怒声と共に恰幅の良い騎士が

カルバハル目掛けて猛烈に突進してきた。

 

その騎士は、

ロレンツォ・ベルナル・デル・メルカドであった。

 

エルナンド・デ・トーレス

「ヌニェス同様、

このメイスで葬り去ってくれるわー!!」

 

メルカド「何だと?!

貴様がヌニェス様を!!」

 

トーレスはメルカドの前に立ち塞がり

メイスを振るった。

トーレスはメイスを巧みに使い連撃を繰り出すが

悉くメルカドの鋼の剣でいなされた。

 

メルカド「フン!」

メルカドは炎の剣で首を突き

トーレスを絶命させた。

 

メルカドは天を仰いだ。

「ヌニェス様、仇を討ちましたぞ。」

 

「メルカド様ー!カルバハルがもうあんな所へ。」

 

メルカド「しまった!

皆の者追うぞ!!」

 

カルバハル

「エルシッド様、頑張っておるのぅ。」

 

パン!

 

カセレスが馬上から銃を撃った。

 

チュンッ!

カセレスの銃弾は、

カルバハルの禿頭のサイドをかすった。

 

千切れた髪の毛が宙を舞った。

 

カルバハル

「母上~私の僅かな髪よぉ~

一本ずつ風に流れてゆくぅ~」

「ギャハハ、カルバハル様

今更何を気にしておられ・・」

 

パン!グシャ!

 

「おお、私の可愛い下僕の頭が~

風に溺れてゆく~」

 

カルバハルは周りの者が次々と倒れていく

絶望的な状況にも関わらず

滑稽な歌を口ずさみながら、八方塞がりの包囲網の中、

緊張感なく馬で駆けている。

 

バルディビア

「もうすぐ沼地があるはずだ。

そこに誘い込む様に追い込むぞ。」

アルデレテ、カセレス「ハッ!」

アルデレテとカセレスは100名ずつ兵を率いて、

カルバハルを追い詰めて行った。

 

カルバハル「これは、

ワシを何処かへエスコートしてくれてるのかの?」

 

パカラ!バジャラ!

 

バジャラ!

カルバハルは沼地に突入した。

 

パン!パン!

バルディビアの指示の元、

アルデレテ軍とカセレス軍は、

カルバハルの進路を誘導する様に銃撃を繰り返している。

 

「見事じゃのう。

一体どやつがこの軍を率いてるのかの?」

 

カルバハルは馬で駆けながら、後ろを振り返った。

カルバハル「ヒョッホゥ!あやつか!

どうりでな。」

バルディビアはカルバハルと目が合うと、

馬上から槍を投げた。

ヒュルルー。

 

槍はカルバハルの馬の足元へ飛んできたが、

カルバハルは巧みな馬術で槍を躱わした。

 

そしてカルバハルは

一瞬馬の足元に目を落とすと

軽く微笑んだ。

 

カルバハル「狙いはそこか。

そうよなぁ、ワシもそうするわい。」

 

方向転換した先には馬の足が丁度ハマる様な窪みがあった。

 

ドジャァー

窪みを避けきれず馬は足を取られて転倒した。

 

カルバハルは馬の下敷きになり、

片足が挟まれて動けない状態となった。

 

バルディビア「お久しぶりですな。」

カルバハル「見事なエスコートじゃ。

数十年ぶりの再会のプレゼントは泥の抱擁か。

お陰でワシの肌も潤いを取り戻したわ!

ヒョッホホ!」

 

バルディビアは軽く笑みを浮かべ、

片足を後ろに引き、膝を曲げてカルバハルに会釈した。

 

 

 

※1) でぃすぱぁ~ろ・アラカ・べっさ!

disparo a la cabeza(ディスパロ・ア・ラ・カベサ):ヘッドショット

アラウコの叫び/本編

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