-フランシスコ・デ・アギーレ邸宅-
アギーレには日課があった。
朝起きると決まって、自身の部屋のバルコニーから
煙草を吸いながら街を一望する。
煙草の原材料は、ナス科のニコチアナ属の植物であり、現アルゼンチンとボリビアの国境付近が原産と言われている。
中米に伝来し、マヤ族により神への供物として使用される様になった。
そして、コロンブスが新大陸で煙草を知り、スペイン本土にも広がったと言われる。
「ふぅー今日も良い天気じゃのぅ。
ワシが東の地を任されて、特に良かった事の一つはこれじゃ。」
そう言うとアギーレは煙草を吹かしながら、
街を眺めた。
アギーレ「!」
その時、遥か遠くから火花が見えた為、
アギーレは咄嗟に身を屈めた。
パン!!
銃弾は大きく外れ、広いバルコニーに設置されたトーテムに命中した。
アギーレ「なんと・・ここに銃弾が撃ち込まれるとはの・・」
「アギーレ様!!
ただ今銃声が聞こえましたが、お怪我は?」
アギーレ「どうやら、命を狙われたみたいだな。
あそこから狙撃した様じゃ。」
「あんなに遠くからですか?」
アギーレ「まあ案の定、大外れじゃ。
あの場所から正確に狙う者など限られておる。
まさかのぅ。
念の為、あの場所に痕跡がないか、調べよ。」
「ハッ!」
衛兵がアギーレの部屋へ戻ってきた。
「アギーレ様、狙撃ポイントと思われる場所から
この様な物が。」
アギーレ「これは・・ペドロ殿の所の・・」
アギーレは衛兵から、徽章を手渡された。
-サンティアゴ酒場-
巷では、バルディビアがペルーへ行ってる間、
クーデターが起きると言う噂が広がっていた。
そしてほどなくして、アギーレの暗殺未遂事件が起き、
噂はより大きくなり、情報が錯綜していった。
「聞いたか?アギーレ様の件?」
「どうやら総督代理が有力者たちを消し
チリを乗っ取るって噂は
まんざらではないのかもしれないな。」
「既に代理の地位にあるのにか?
俺はフワン・ゴメス様が関与してるなんて話も聞いたぞ。」
「ゴメス様って言ったら、ディエゴ様の弟だろ?
確かにやりかねんか・・」
「おいおい、お前ら滅多な事言うもんじゃないぞ。
というか、ディエゴ様は捜査に関与してるって意味なんじゃないのか?」
「けどよ、それは両方の意味もあるんじゃないの?」
-1547年12月8日 サンティアゴ-
狙撃事件から間を置かず、事態は急展開を迎える事になる。
ガスパル「サンチョ・デ・ラ・ホス様
チリ総督代理に対するクーデターの容疑で拘束します。」
「貴様!ホス様に何をする?」
「言いたい事があるなら貴方方も同行されよ。」
ホスの側近達は身構えた。
ガスパル「それとも、この数でワシとやるつもりかな?
道を開けてもらおうか。」
元漆黒の騎士筆頭であるガスパルの武勇を知らぬ者はなく、
誰も剣を抜いて抗おうとする者は誰1人いなかった。
-サンティアゴ総督府-
ガスパル「フランシスコ様、クーデターの容疑者を連行してきました。」
フランシスコ「ご苦労。」
その場には、フランシスコ、親類のペドロ、ガスパルと各々のお付き、
そして先日警備長に任命されたアロンソが兵を連れ
その場にいる者を取り囲む形で待機している。
ホス「これはどういう事かな?
随分と強行的ですな、フランシスコ殿?」
フランシスコ「貴方は2度バルディビア様を狙った前科がある。
バルディビア様は貴方に寛容であったが、
私は甘くはないぞ。」
ホス「今までの経緯から私を疑っておられるという事ですな。
しかし、それだけで私を連行する根拠としては不十分。
こちらが納得のいく証拠はあるのでしょうな?」
フランシスコ「フフ。
証拠を示せと言う事ですかな?
それは今から紐解けていく事であろう。」
ホス「ほう、見ものですな。
所でフランシスコ殿は、アギーレ殿の件ご存知かな?
もっぱら強力な軍事力を有するお二人の
権力争いではないのかと、巷では噂になっておりますが。」
フランシスコ「含みのある言い方ですな。
その権力争いとやらの目眩しの為に、
貴方を捕らえたと?」
ホス「ハハッ、目眩しにはならんでしょ。
アギーレ殿は現に命を狙われたのですよ?
仮に私に難癖を付けて処断した所で、貴方に対する注目は深まるばかりでしょう。」
フランシスコ「ご忠告有難うございます。
ちなみに、じきにアギーレ殿の件の調査の報告も届くであろう。」
ホス「ほう、楽しみですな。」
「フワン・ゴメス・デ・アルマグロ、只今到着いたしました。」
ホスは、微かに口元を緩ませた。
フランシスコ「ゴメス様、
ここにいる者がアギーレ殿の件についてお聞きしたいそうだ。」
ゴメス
「ハッ!
残念ながら犯人の特定には至りませんでしたが、
狙撃ポイントにこのような物が落ちてました。」
そう言うとゴメスは、徽章を取り出した。
衛兵
「これは栄誉ある銃兵に贈られる徽章。
この地でこの徽章をつけておるのは・・」
ホス「ククク、これはベルガラ親子しか持っておらぬものでございましょう。
ベルガラ親子と言えば、フランシスコ殿のご親戚ペドロ様の直属の部下。
これはどう言い逃れするつもりですかな?」
フランシスコ「ハハ!
ペドロよ、そう言われておるぞ?」
ペドロ「確実に別の者でしょう。
ベルガラ親子であれば、まず外す事はない。
ましてや銃弾は見当外れの所に飛んでいったとか。」
ホス「そんな言い訳が通ると思われるのか?」
ペドロ「しかも、やつらなら標的に火花を見せない工夫もするはず。
その様な失態をするはずがありませぬ。」
ホス「なんだと?
四の五の言った所で、物的証拠があるではないか。」
フランシスコ「ほう、それでも財務官殿は納得がいかぬか。」
ホス「しかも巷では、フランシスコ殿が
クーデターを起こすという話で持ちきりですぞ。
その際実力行使に及ぶのであれば
最も厄介な方はアギーレ殿。
もしクーデターを起こすならば、順序立てとしては合点がいきます。」
フランシスコ「流石クーデターを2度も行ってる方は言う事が違う、勉強になりますなぁ。
ゴメス様、もう一つお話があるそうで。」
ホス「まだ話は済んでおりませぬぞ!」
ホス(こやつ、もしやゴメスまで取り込んでおるのか・・こやつの事だ、何か難癖をつけて強引に話を進めるつもりか。だが、そうはゆかぬ・・しかも、このフランシスコの慇懃無礼な物言い、腹に据えかねる。)
ホスは周りに目をやり、ある人物がその場に居合わせてる事を確認した。
(ええい面倒だ。ガスパルがいたとて、今この状況ならば私が有利。今総督の座を奪ってやるわ!!)
フランシスコ「何を焦っておられる?
何かやましい事でもあるのですかな?」
ホス「この様な強行な形に出るならば、私にも考えがあります。」
フランシスコ「強行?何の事でしょうか?」
ホスは不敵な笑みを浮かべ叫んだ。
「アロンソよ!お前の出番だ!!
横暴者を粛清するのだ!!」
フランシスコはニヤリとした。
ガスパルは戦闘体制に入ろうとした。
フランシスコは手を挙げて、ガスパルを制した。
ホス「アロンソよ、どうした?
この者達にワシの縄を解かせよ?」
アロンソ含め、周りの兵達もピクリとも動かなかった。
フランシスコ「フッ、もうお分かりでしょうか?
アロンソ殿は貴方の意向には添えぬのです。」
「な・・キサマァ!!
裏切ったのか!」
ホスはアロンソを睨みつけた。
アロンソ「・・私はずっと悩んでました・・恩あるホス様に従うべきか──
ある日たまたまゴメス様に話しかけられました。」
ホス「何の話をするつもりだ?!」
アロンソ「ゴメス様の国を想う気持ちに
感銘を受け考えが変わりました。
幾ら大恩ある貴方の頼みでも、私怨により
国を乱す者に私は加担できません。」
ゴメスは正義の杖を握りしめた。
(ロボ神父よ、杖に忍ばせた手紙感謝致す。)
ホス「コンキスタドール風情が・・国だと?
聖人にでもなったつもりか。」
ゴメス「ホス殿、貴方はアロンソ殿が
どういった方か見抜けていない。」
フランシスコ「テラ・オーストラリスの所有権をめぐる遺恨から
バルディビア様の命を2度も狙った。
その執念は凄まじいですが、毎度あまりにもお粗末であった。」
ホス「テラ・オーストラリス、いやチリは私のものだ!!」
フランシスコ「そして、今度はチリ総督の地位を狙いクーデターを企てた。
アロンソ殿が貴方からの要請を吐露してくれました。」
ホス「・・」
フランシスコ「ただ、アロンソ殿は貴方から渡された手紙は既に燃やされていた。
その為、こちらは物的証拠を持っていない。
流石にアロンソ殿の証言だけでは、貴方を処罰する事は難しい。」
ホス「まさか、貴様・・
自身がクーデターを起こすという噂を
自ら流布したのか?」
フランシスコ「流石、ピサロ様の秘書をされていた御方だ。
おっしゃる通りです。
そしてその様な噂が広がった所で、
気が早い貴方なら何か仕掛けてくると思ったのです。」
ホス「・・くっ。」
フランシスコ「そうそう先程のアギーレ殿の件を証明しましょう。
もうゴンサロと政府軍の戦いにケリがつく頃でしょうから打ち明けても良いでしょう。」
ホス「何?」
フランシスコ「実はベルガラ親子は、現在私の叔父にあたるガブリエルの救出の為、ペルーのゴンサロ軍に潜入させております。
なので、ベルガラ達がアギーレ殿を狙撃させる事は不可能。
どうやって徽章を入手したのか分かりませんが、いい線いってましたね。
ただ機会に目が眩んだのか、情報収集が甘かったですね。」
ホス「出まかせを、ペルーに奴らがいる証明を今ここで出来るのか?」
フランシスコ「おっしゃる通りです。
ただ、今ここでアロンソ殿を使いここで謀反を起こそうとしました。
証拠は十分にございます。」
ホス「謀りおったな、貴様!」
フランシスコ「ペドロ・サンチェ・デ・ラ・ホス
謀反を企てた罪により、極刑に処す!」
ホス「なんだと?この私を!」
ガスパル「やれ!」
ゴメス「!」
ドシュッ!!
ガスパルはすぐさま自身のお付きのヤナコナに指示し、
ホスに有無を言わす暇なく首を刎ねてしまった。
ホスの首が綺麗に宙を舞った。
周りにいた者は一瞬の出来事に面食らった。
フランシスコ「お、おい・・ガスパルよ。
何をやっておる?」
ガスパル「はっ?
いや・・極刑に処すと言われたので。」
フランシスコ「そうか・・お前はこの様な事は初めてであるな。
クーデターとは言え、仮にも貴族。
こういう場合は、改めて場を設けて処刑するものなのだ。」
ガスパル「なんと!!申し訳ございません・・
何分、裁判みたいなものは不慣れなもので・・」
フランシスコ「まあ、起きてしまった事は仕方ない。
どちらにしても処刑される身であったもの、
私はバルディビア様にならって寛大だ。
不問に処す。」
辺りは何とも言えない空気が流れていた。
フランシスコ「と、アロンソ・デ・コルドバ・ゴメス
一時はクーデターに加担する身であったとは言え
今回の勇気ある告白に免じて、同じく不問に処す。」
アロンソ「ハッ。」
フランシスコ「ゴメス様、クーデターを未然に防げたのは、貴方のお力あってこそ。
後ほど、改めて感謝の気持ちを送らせて貰います。
これからもサンティアゴの治安維持よろしくお願いします。」
ゴメスは一礼をした。
(ホス殿の影響力を考えれば、処刑は本来ならまずい・・これまで生かされてきたのは、バルディビア様の計算と寛容なお心ゆえ。
おそらくガスパルの行動は、あやつの一存ではないだろう。フランシスコの容赦なさを見誤っていた・・)
フランシスコ「それでは解散とする。」
皆が去り、フランシスコとガスパルの2人になった。
フランシスコ「ガスパル、名演であったぞ。」
ガスパル「ハッ。
処刑の名手を手配しておいた甲斐がありましたわ。」
フランシスコ「あそこで処刑しとかないと、
後で外野が騒ぎ出して面倒な事になりかねんしな。」
1547年12月8日、サンチェ・デ・ラ・ホスはこうして人生の幕を閉じた。
バルディビアの傘下にありながらも、何度もバルディビアの命を狙った。
そして毎度失敗したにも関わらず、ここまで生きながらえてきた。
それは彼が宮廷へも顔が効き、影響力のある人物だった為、バルディビアも処断できなかった為である。
そして、この一件は一波乱を巻き起こす事になる。
-キロガ邸-
キロガ「ホス殿が処刑されただと!
馬の準備をせよ!」
ヤナクナ「ハッ!」
キロガはコパカバナに向かった。
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