南のマプチェの若者達が驚いている。
「ナウエルが簡単に髪を掴まれたぞ。
あいつ只者ではないぞ・・」
レポマンデ(ん?どういうつもりだ?)
ナウエルはまだ相手の髪を掴もうとしていない。
レポマンデ(・・しかし、こいつは髪を掴んでみて感じる。一瞬で勝負を決めるべき相手だ。)
レポマンデはもう片方の手で髪を掴み一気に引っ張りにかかった。
その時ナウエルは、相手の引っ張る方向に合わせて、首を動かした。
ズザザッ
レポマンデは思わぬ力が加わった事により、体制を崩し地面に額からついて転がってしまった。
周囲は静まり返っていた。
「え・・どういう事だ?あっさり決着がついたな。」
パルタ「勝者ナウエル!」
「なんだ、ナウエルが余裕をかまして髪を掴ませただけの事みたいだな。
臆して自滅か、短髪の奴が弱すぎたな。」
ナウエルの凄さよりも相手の弱さで納得しようとする者もいた。
「あのレポマンデってのもなかなかだったな。
勇敢だったから瞬時に決着がついたってとこか。
そうだろ?」
エルネイは隣いたレンゴに話しかけた。
レンゴ「ふん。」
マレアンデ「お前の力を上手く利用されたな。」
レポマンデ「ああ、免除者の資格は伊達ではない。
あいつもお前に似て、華がある。」
マレアンデ「ふん、一緒にするな。
私の方がより優雅だ。」
パルタ「次!ラウタロとエプレフ前へ。」
エプレフは不適な笑みでラウタロを睨みつけている。
エプレフの取り巻き
「エプレフ、ここで決定的の力をあいつに見せつけられるな。」
エプレフ「ああ。」
ナウエル「ラウタロ、今回は手心を加えないんだろ?」
ラウタロ「ああ、この祭事で格付けが済めば
あいつも鬱陶しく絡む事も出来なくなるしな。」
ナウエル「だな。エプレフは良くも悪くも誇り高い奴だからな。」
パルタ「始めぃっ!!」
エプレフ(奴の動きは完全に見切っている。不意を突かれようが遅れをとることはない。)
ラウタロは早くも左手を伸ばしてきた。
エプレフ(奴の癖は分かってる。右足が内側を向いている、左は偽装だ。)
エプレフ「何?!」
エプレフは自身の左腕を挙げて防ごうとしたが、そこにラウタロの右腕は無かった。
そしてラウタロの左腕は、あっさりエプレフの髪の毛をガッシリ掴んだ。
ナウエル「鮮やかなもんだね。この前の喧嘩で、偽りの癖を仕込ませてたんだね。」
すぐさまラウタロは右腕を伸ばしてきた。
しかし、その標的は髪ではなくエプレフの耳に向かっていた。
エプレフは寒気がして切れかかっている耳を咄嗟に防ごうとした。
エプレフは左手を上げたと同時に、自身の視界が地面に近づいていく状況に混乱した。
ラウタロは耳を狙うフリをして、本命は左手でエプレフの体制を崩しにかかっていた。
エプレフは感覚で右手を地面につけようとしたが、そこにはラウタロの足が待ち構えており防がれていた。
ドシン!
エプレフの額は大きな音を立てて地面と激突した。
その戦いを観ていた者達は、何が起こったのか把握出来ないでいた。
パルタ「勝者ラウタロ!」
エプレフ「きさまー汚ねぇぞ。
俺の耳を狙おうとしただろう?」
ラウタロ「俺はお前の耳には触れてないが?
臆病風に吹かれて、耳を守りにいってたみたいだったが。」
エプレフ「くっ・・」
ナウエル「エプレフは威圧で、
ラウタロは仕掛けで相手の心を支配する。
エプレフは常にこれからもラウタロの後手に回るだろう。」
次々と戦いは進み、4人が残った。
パルタ「いよいよ、準決勝だ!」
歓声と共にナウエルが現れた。
対する相手は、圧倒的な怪力で相手を捩じ伏せ勝ち上がってきたコルピジャンだ。
「どっちが勝つと思う?」
「そりゃナウエルだろう、あいつにとっては力どうこうとか関係ないからな。」
「いや、あのコルピジャンってやつも相当なもんだぞ。」
「この勝負分からないな。」
周りの者達は、それぞれの予測を話しながら大いに盛り上がっていた。
マイロンゴ「アイツは侮れんぞ。
ただ、お互い掴み合ってしまえば、お前に分がある。
力では流石のアイツも勝てないだろう。」
パルタ「始めぃっ!!」
コルピジャンはすぐさまナウエルの髪を掴みにいったが、まるでとらえることが出来ない。
ナウエルにとってもは、コルピジャンの動きがあまりにも遅すぎた。
ラウタロ「リチュエン、ツルクピチュン、ナウエルの動きをよく見ておけ。
この大会で、あいつは一度も相手の髪を掴んでない。」
ツルクピチュン「言われてみれば・・」
ラウタロ「非力な者たちの戦い方を身を持って教えてるんだ。」
リチュエン「!」
コルピジャン試みは素手空振りに終わり、ただ体力だけが消耗していった。
ラウタロ「ああいった身体のでかい相手は動きも遅く、体力の消耗が激しい。
時期にあいつは自滅するぞ。」
コルピジャンは一心不乱にナウエルを掴もうとしている。
マイロンゴ「あああ、ウスノロめ!
誰もお前の歪な踊りなんか見たくないんだよ。」
仲間であるマイロンゴさえもコルピジャンにイラつき始めた。
すでにコルピジャンにはマイロンゴの声が届いていなかった。
ラウタロ「髪を掴む行為は、
人を攻撃するのと同様に
空振りした方はかなり体力を持っていかれる。
そしてアイツは痛み同様、
疲れすら感じられない様だな。」
ドシンっ!!
ラウタロの予想通り、
疲弊の色を見せていなかった。
コルピジャンはいきなり倒れ込んだ。
パルタ「勝者ナウエル!!」
「思った以上に勝負にならなかったな。」
「相手を捕まえることが出来なければ、
どうにもならんな。」
「俺でもやれるような気がしてきたぜ!」
パルタ「準決勝第二試合を行う!
ラウタロとチルカン前へ!」
ラウタロの目の前には、浅黒い肌の灰色がかった外套を纏った男が現れた。
ナウエル「次は君だね、ラウタロ!
僕らは彼の試合を
今まで見れてなかったけど、おそらく只者ではないよ。」
ナウエルはラウタロの肩に手を置いた。
「気をつけて。」
辺りもざわめき出している。
「アイツだろ。
先ず相手に髪を掴ませる奴ってのは。」
「ああ、
そんな体格は良くは見えないんだがな・・
大岩の様に動ないらしい。」
フェニストンはチルカンを見て呟いた。
「・・あいつはおそらく秘術を使っている。」
マイロンゴ「なんでわかるんだ?」
フェニストン「あいつの首をよく見ろ。
俺の足と同じ様にいくつも穴が空いてるだろ。」
マイロンゴ「ほんとだ。
首にいくつも穴が空いてる。」
フェニストン「おそらく大岩を砕いた粉を注入している。
ただ、髪を引っ張られても
痛がらない所を見ると
頭にまで打ってるなあれは。」
マイロンゴ「ほんとかよ・・痛そうだな・・」
パルタ「始めぃっ!!」
ラウタロ(隙だらけだな。髪を掴んでくれと言わんばかりだ。)
ラウタロは躊躇なくチルカンの髪を掴みにいった。
(!? ・・これは・・)
ラウタロは大岩に手を触れているような感覚になった。
試しに動かしてみるが、
チルカンの頭はピクリとも動かなかった。
ラウタロ(これは相手が動き出したら、その力を利用して勝負に出るしかないな。)
おいおい、止まってないでどっちか早く動けよ。
チルカンは相手が力を出し切ってから、
力の差を示す様に相手を倒してきた。
チルカンはラウタロが
力を出し切ってないと感じていたので
なかなか動こうとしなかった。
「貴様、力を出しきらないで負けたら悔いが残るぞ。」
チルカンは上下の歯で何かをすり潰しながら、話してる様な音を立てて言葉を発した。
「俺が出し切るのは力ではない、ここだ。」
ラウタロは自分の頭を指差した。
チルカン「ほう。見せてもらおうか。」
チルカンはラウタロの髪を掴みにきた。
ラウタロは相手の力を利用しようとしている。
ラウタロ(よし今だ!)
ラウタロは相手の力に呼応する様に体を動かし、
相手の力を増幅させ転ばせようとした。
ラウタロ(何!
こ・・これはもはや人体ではない・・)
ドサッ。
チルカンはあっけなくラウタロの額を地につけた。
チルカン「貴様の技は人体を想定したものであろう。
残念ながら、岩と化した我の身体には効かぬわ。」
パルタ「勝者チルカン!!」
ラウタロ「面白いな。
世の中にはあんなやつもいるんだな。
ナウエル、アイツは岩だと思った方がいい。」
ナウエル「みたいだね。」
パルタ「いよいよ、決勝だ!
ナウエルとチルカン前へ。」
エプレフ「おいおい。
これは公平じゃないんじゃないか。
チルカンってやつ、今戦ったばかりだろ。」
パルタ「始めぃっ!!」
ナウエルは、自分の髪を掴めと言わんばかりにチルカンに首を差し出した。
チルカン「我が試合を終えたばかりゆえ
気を遣っておるのか?」
マイロンゴ「ハハ、馬鹿か!
いったい何余裕かましてんだ?アイツ。
岩男!さっさと髪を掴んで投げ飛ばしてしまえ!!」
チルカン「後悔するなよ。」
チルカンは、ゆったりとナウエルの髪を掴み思いっきり引っ張った。
しかし、ナウエルの首はびくともしなかった。
チルカン「こやつどうなっておる?」
チルカンは何度も引っ張る動作をしたが、ナウエルは微動だにしなかった。
「ほんとかよ。どうなってるんだよ。
あのナウエルって奴、すばしっこさが売りじゃなかったのか?」
辺りは理解が追いつかない者で溢れていた。
ナウエル「へー君の観ていた景色はこんな感じなんだね。」
チルカンは呆気に取られている。
ナウエル「さて、今度は僕の番かな?」
ナウエルはゆっくりとチルカンの髪に手を伸ばしたかと思うと、
素早く髪を引っ張り瞬く間に相手の額を地面に付けた。
パルタ「勝者ナウエル!」
大きな歓声が上がった。
「規格外過ぎるだろ。あれが免除者か・・」
ツルクピチュン「ナウエル凄いや!楽勝だったね!」
「そうでもないさ。」
ナウエルは血だらけになってる自身の手の平と、方足の爪の一部が剥がれているのを見せた。
ラウタロ(顔色一つ変えずあれだけの力に耐え、かつ自分の皮膚さえ耐えきれない程の力で引っ張ったってところか。)
「さて、流石に僕は次の競技は休むよ。」
そう言うと、ナウエルは近くの河原に向かった。
レポマンデ「あいつ次の競技は出ないみたいだな。」
マレアンデ「仕方ない。
免除者として私が盛り上げてやるか。」
レポマンデ「いや、泥臭くない競技だから出るだけだろ・・」
パルタ「次の競技はクラントゥンだ!」
マレアンデが試合会場に足を踏み入れた。
「あいつがマレアンデか。なんて絵になる奴だ!」
辺りの者はマレアンデの端正な出立に魅了されていた。
-河原-
「見ない顔だな。君はどこから来たの?」
ナウエルは河原で座り込んでいる少女に話しかけた。
「あっち。」
日焼けした肌に微かにそばかすがある少女は、河岸の向こうを指しながら言った。
ナウエル「へー、まさか巨人の地から来たの?」
少女「そんなに遠くないよ。
というか、そんな大きく見えたの私?」
ナウエル「まあ、心は大きさそうであるね。」
少女「何それ?
今日お祭りがあるって聞いたんで、家族の目を盗んで遊びにきたの。」
ナウエル「1人できたのか、凄いな。」
少女「子供扱いしないで!
私の父さんじゃないんだから!」
ナウエル「ごめんごめん。」
少女「あなたよく見れば、傷だらけじゃない!
何?祭りに出てるの?
へぇー激しい祭りなのね。」
ナウエル(この娘は祭りに来たのに、どんな内容の祭りかしらないのか?)
「じっとしてて。」
少女は自身の衣を少し破き、ナウエルの右手を手当てしだした。
ナウエル「ありがとう!やっぱり大きい人だね笑」
少女「まだその話引っ張ってる?!」
ナウエルははにかんで、自身の手を眺めながら少女に話しかける。
「変わった布だね。この辺りでこんなのあったっけ?」
この地域では見た事のない様なきめ細かい白い布だった。
少女「昔父さんが、どこかの商人から手に入れて、私にあげたの。」
ナウエル「そんな大事ものなのに、破いちゃったの??」
少女「・・だって痛そうだったし。」
ナウエル「このお礼を何かさせてよ。」
少女「別にいいよ。同じくらいの歳の人とこうやって話せただけで楽しかったし。」
ナウエル「そっか。
君の住んでる地域では同じくらいの歳の人いないんだね。」
少女は微笑んだ。
「またどこかで会う時まで、何かお礼を考えていてね!」
ナウエル「そうだね、考えておくよ!」
少女「そろそろ皆の元に帰らないと。
またいつか!」
少女は思ったより、早足でその場からいなくなった。
ナウエル「あっ、名前ぐらい聞いとけば良かったなぁ。
さて、僕も皆の元に戻るか!」
-競技会場-
ナウエル「おっ!まだやってるねぇ。」
既に人だかりが出来ていた。
「免除者と大人しそうな奴が良い勝負してるぞ!」
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「アラウコの叫び」第9話目のCM
⚪️相関図
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