第23話「ウアリナの戦い」

-ヌニェス処刑前-

ゴンサロ「ウジョアよ、人目を忍んで遠路はるばるご苦労。」

 

ウジョア「この事はバルディビア様の傘下の者たちも知らぬ行動。くれぐれも私がここにいる事は内密にしてくだされ。」

ゴンサロ「分かっておる。チリ総督は現在繊細な位置にあるからな。」

 

ウジョア「・・。ありがとうございます。」

 

ゴンサロ「して此度は何用じゃ?

既に送られておる資金と銃兵増援の件助かっておるが、

それについて何か要求でもしにきたのか?」

 

ウジョア「要求だなんて滅相もありません。

ただ僭越ながら進言をしに来ました。」

 

ゴンサロ「ほう、進言とな・・」

 

ウジョア「差し出がましい事とは思いますが、我が主から言づてを預かっております。」

 

ゴンサロ「?・・言うてみよ。」

 

ウジョア「人材は勢力の宝です。

ここでベナルカサル殿や、ジロン殿などの有力者には

恩赦を施し借りを作っておいた方がよろしいかと。

きっとゴンサロ殿の力になると思います。」

 

ゴンサロ「確かにやつらが味方につけば、こちらも心強いが・・」

 

ウジョア「それと、ヌニェスの件なのですが、

例のパレードの実行は妙案だとは思います。

ただ、その後に関しては丁重に葬るのが良かろうかと・・」

 

ゴンサロは鋭い目つきでウジョアに詰め寄る。

「一介のチリ総督がわざわざ俺にそんな事を言う為に、お主を寄越したと言うのか?

その意図を申してみよ?」

 

ゴンサロ(今回のバルディビアの支援は表だったものではない。あやつの現状は政府へも中立に見える立ち位置にある。政府へのご機嫌伺いを陰ながらしたいのか?)

 

ウジョア「ゴンサロ様、ここからの話は

腹を割って話しとうございます。」

 

ドサッ!

 

ウジョアは金銀財宝をゴンサロの前へ広げた。

ゴンサロ「なんじゃ!?

さらなる資金の提供か?」

 

ウジョア「我が主からというのは間違いありませんが、

それはバルディビアの言伝などではありません。

また、これは私の真の主からのお気持ちで御座います。」

 

ゴンサロ「なんだと?

お前は相続権を得る為にバルディビアからあらゆる便宜を図って貰ったと聞いておるが?」

 

ウジョア「その様なものは奴が世間体を整える為のものに過ぎませぬ。

私の真の主は・・」

 

ウジョアはゴンサロの耳元で真の主の名と、

今後の計画について囁いた。

 

ゴンサロ「ガハハ!

そうであったか。

あやつがお前の主か、それならば納得よ。

バルディビアよりよっぽど信頼できるわ。」

 

ウジョアは深々と頷いた。

 

ゴンサロ「そして、その計画俺にも悪くない話よのぅ。」

 

ウジョア「主はゴンサロ様の兄上の側近。

かつ主が本来得るはずだった利権を

状況が二転三転しバルディビアが得ている状況。」

 

ゴンサロ「アタワルパの件でもあやつはよく働いてくれたわ。

確かにあの一件で、腹に据えかえてるものがあるだろうな。」

 

ウジョア「おっしゃる通りでございます。

ゆくゆくは我が主をチリ総督の地位へ押し上げたいのです。」

 

ゴンサロ「考えておこう。

そういう明確な目論見がある者は信用できるわ。」

 

ウジョア「ハハッ!ゴンサロ様からのこの言、主も喜びまする。」

 

ゴンサロ「所で話は戻すが、ヌニェスの件はどういう意図だ?」

 

ウジョア「ゴンサロ様も主の情報収集の手腕は御存知とは思います。

主曰く、いくらゴンサロ様が軍事力があったとしても、

現段階でもし本国が本腰を入れてきたら、勝ち目はありません。」

 

ゴンサロ「そこまで差があるのか?」

ウジョア「今や、本土の艦隊はこの世で最も強い艦隊と言われております。

今回は融通の効かないヌニェスが来たから問題はありませんでしたが。」

 

ゴンサロ「ああ、取るに足らない戦だった。」

 

ウジョア「そこでです。

より盤石な体制になるまでは、本土へ歩み寄りの姿勢をしておくのが上策と言えます。

ヌニェスを手厚く葬る事により、徹底抗戦の意思がない事を示すのです。」

 

ゴンサロ「なるほどな。

まだこの大陸はインカの問題もあるが、スペイン人同士でも一枚岩ではないからな。」

 

ウジョア「しかも、このパフォーマンスは

ゴンサロ様の寛大さもアピールする事になり、

傘下に加わる者を増える事でしょう。」

 

ゴンサロ「ベナルカサルの様な北方へ顔が効く連中も

味方につけておく必要があるという事か。」

 

ウジョア「おっしゃる通りです。

また、主はゴンサロ様の勢力拡大に惜しみなく協力するとの事です。」

 

ゴンサロ「こうしてはおれんな。

カルバハルが帰還する前に手筈を整えるか。」

 

ウジョア「私は一旦情報収集の旅に出ます。

それでは。」

 

 

-アタカマ砂漠-

ウジョアは従者を引き連れ、リマから移動し旅を続けていた。

 

「ウジョア様、あそこに人影が。」

 

従者の1人が倒れている男を発見し話しかけた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「・・・」

 

男は貴族の様な身なりはしているが、

服は汚れ満身創痍であった。

 

ウジョア「貴殿、名は何と申す?」

「ガブ・・リエル・デ・ビジャ・グラ」

 

ウジョア「何?!失踪中のガブリエル殿か・・

このような場所にいたとはな・・」

 

ウジョアはアタカマ砂漠の中継地までガブリエルを搬送した。

 

虚ろな目をしながらガブリエルはウジョアに今まであった事を話した。

 

ウジョア「その様な事があったのですな。

それはさぞ辛かったろうに。」

 

ウジョア(親友と離別から、カルバハルの洗礼か・・気の毒な話だな。若者には刺激が強すぎただろうに。)

 

その時、世の急変を告げる様な噂話をする者達の声が聞こえてきた。

 

「おい、聞いたか?

何やらまた新しいペルー副王が本土から向かってくるらしい。」

 

ウジョア(思ったより早いな・・とはいえ、ゴンサロ様の体制も整ってはきておる。)

 

「らしいな。それに呼応して各地で物騒な事が起きているみたいだな。」

 

「5月の末のロドリゴ・デ・サラザールの事件は衝撃的だった。」

 

「あのエルモソを捕らえた奴だろ?」

 

「そうそう、やつがゴンサロ派から新副王派に寝返り、腹心のプエリェス様を仲間と共に殺害したらしい。

しかも、首は柱に吊るされ、バラバラにされた手足は街の入り口の大通りに掲げられたそうだ。」

 

「エグすぎるだろ・・」

 

「まっ、キトを統治してたプエリェス様の評判は

すこぶる悪かったしな。

案の定、市民は歓喜していたらしい。」

 

「しかし、そんな事したらゴンサロ様が黙ってないだろう。」

 

「そこなんだが、

どうやって手なづけていってるのかは不明だが、

各地で新副王を支持する声が上がり、

それどころではなくなってるらしい。」

「なるほどな。その最も大規模な支持勢力が

チチカカ湖畔のアルティプラノで駐屯している軍という訳か。」

 

「ああ、1250人からなる軍が駐屯しているらしい。

しかも大将はディエゴ・センテノ様だってよ。」

 

「センテノ様って言ったら、カルバハル様に手も足も出なかったお人だろう?」

 

ガブリエルはピクリと反応した。

 

「センテノ様は前回の戦では負けたが

48人の精鋭でクスコを襲撃して、占領してしまったんだと。

かなり無謀な奇襲攻撃だったが上手くいったらしい。」

 

「たった48人で?

カルバハル様が凄すぎるだけで、センテノ様も並のお人ではないな。

そうか、それが功を奏して1250人も兵が集まっているという訳か。」

 

「何やら今回のセンテノ様の軍には遠方だと

パナマに駐屯していたやつらも加わってらしいぞ。」

 

ガブリエル「パ・ナマ・・」

 

ガブリエルの頭にはパントーハの顔が浮かんでいた。

 

「センテノ様も勢いがありそうだが・・

カルバハル様とだけは戦いたくねぇな。

捕まったら最後どんな目に遭うか。」

 

「ただ、ゴンサロ様は1000人で向かってるらしい。」

 

ガタッ

 

咄嗟に椅子からガブリエルが立ち上がった。

 

ガブリエル「パントーハが・・危ない・・

行かなくては・・」

 

ウジョア「ガブリエル殿そんなお身体で行くつもりか?」

 

ウジョア(パントーハ?友人が何かか?この小僧、こんな状態で戦地に行くつもりか?ただ、1000人か分が悪いな。ここは、ガブリエルに同行してセンテノ側に潜んでゴンサロ様を手助けしておくべきか・・)

 

ガブリエル「行かなくては・・」

 

ウジョア「ガブリエル殿、私も同行します。

ささ、私の馬車へ、お乗りください。」

 

ガブリエル「かたじけない。」

 

 

-1547年10月ウアリナ-

センテノ軍はチチカカ湖南東に位置するウアリナで、カルバハル軍と対峙していた。

 

ガブリエル「パントーハ!!」

パントーハ「ガブリエル久しぶりだな。

生きていたんだな。そちらの御仁は?」

 

ガブリエル「アントニオ・デ・ウジョア殿だ。

話すと長くなるが、今回ここまで来るのに

助けてくださった方だ。」

 

パントーハ「ウジョア殿、私からも礼を言わせて頂きます。」

 

ウジョア「いえいえ、当然の事をしたまでですよ。」

 

ガブリエルは、パントーハにこれまでの事を話した。

 

パントーハ「その様な状態からここまで回復したのか・・何から何までウジョア殿のおかげだな。」

 

ガブリエル「ウジョア殿、この戦が終結したら

宴を開きますので是非いらして下さい。」

 

ウジョア「ビジャグラ家の宴、楽しみにしてます。」

 

パントーハ「数では勝ってはいるが

肝心のセンテノ様が熱を出してな。

今回は籠に乗って参加するらしい。

ただ、その様な状態でも戦場に向う

気概のあるセンテノ様を見て士気は上がってる様だ。」

 

ウジョア(センテノのカルバハルに対する執着も凄まじいな・・)

 

 

-1547年10月20日 ウアリナの戦い-

ドンドンドン!!

センテノ兵「何だ?奴ら空に銃を撃ち踊りながら行進しておるぞ!」

 

センテノ兵「何やってるんだアイツら?勿体無い、弾の無駄よ。」

 

ドンドンドン!!

 

センテノ兵「銃兵30人ほどに槍騎兵が控えておるな。

こちらと同等ではある。」

 

センテノ騎兵長

「しかし、あやつら銃の扱いを知らんのか?

撃った後の準備の間に一気に駆逐するぞ!」

 

ドンドンドン!

 

センテノ騎兵長「今だ突撃!!」

 

ドンドンドン!

 

センテノ兵「何?!銃兵がすぐ撃ってきたぞ・・

しかも槍騎兵まで銃を装備している・・」

 

ドンドンドン!

 

センテノ兵「早い!!3発目まで・・

まずい槍騎兵が今度は突進してきたぞ!」

 

コルドバ「うおおぉぉ!」

ゴンサロ達に不信感を抱いているコルドバではあったが

仕事だけはこなしている。

 

ボシュ!

 

コルドバは馬上からセンテノ兵を力強く殲滅している。

 

コルドバ(これほど近代兵器を有効に活用してる戦は見た事がない。しかもその発案者がカルバハル・・人格は問題があるが、認めざるを得ない人物よ。)

 

今回の戦いでゴンサロ軍の銃兵の占める割合は非常に多かった。

センテノ軍の銃兵200に対しゴンサロ軍の銃兵487。

しかもカルバハルはすぐに次を撃てる様に、

1人2~3丁を銃を携帯させていた。

 

最初の突撃でカルバハル軍に向かったセンテノ軍は100を失う。

第二波に銃兵が速撃てるとは知らず、

深く突進したセンテノ軍は大きな被害を被り、

かつ槍騎兵の突進により完膚なきまで潰され200を失った。

ガブリエル「くっ・・なんて悪魔的な戦い方なんだ・・

カルバハルに向かった軍が悉く壊滅している。」

 

パントーハ「いや、こちらも負けていない。」

 

一方、ゴンサロの率いる騎兵隊はカルバハル軍とは対照的に苦戦を強いられていた。

 

メルカド「進めぃ!!

所詮は野盗ども!

大義は我らにあり!!!」

 

メルカドたち騎馬兵の勢いは凄まじかった。

馬から叩き落とす事を目的した攻撃を繰り出し、

次々のゴンサロ騎兵を無力化していった。

一方、メルカド自身は他には目もくれずゴンサロ向かっていく。

 

「ゴンサロ様ー恐ろしく手練の騎馬がこちらへ!!」

 

メルカド「ヌニェス様の無念晴らしてくれようぞ!!」

 

「ゴンサロ様を守れ!」

 

ゴンサロ兵の1人がメルカドに切り掛かるが、

鋼の剣の前に弾かれ、炎の剣で次に構えるゴンサロ兵はいとも簡単に吹き飛ばされた。

 

メルカド「ゴンサロ覚悟!!」

ゴンサロ「ひぃいいい!」

 

ゴンサロは馬上で身を屈めて縮こまった。

 

ガゴーン!!

 

双剣で突き飛ばす様に、ゴンサロを叩く形になった。

ゴンサロは落馬した。

 

メルカドの2つの刃がゴンサロに迫った。

 

ガィーン!

 

「ゴンサロ様!今のうちにお逃げ下さい」

メルカドの双剣をジロンが受け止めていた。

 

「我らの勝利ぞ!!」

センテノ軍はゴンサロの落馬により、勝鬨を上げる者までいたが、まだ決着は着いてなかった。

 

ジロンはメルカドの猛攻を何とか一本の剣で凌いでいる。

 

メルカド「ぬぬぬ・・」

 

ゴンサロは、ジロンのお陰で何とかメルカドから逃げ切る事が出来た。

ゴンサロ騎馬兵の被害は甚大で、わずか12人の騎馬兵を残し、他は落馬してしまった。

 

ガブリエル「さて我らも押し返しましょう。

ウジョア殿、パントーハ援護を頼みます。」

ガブリエル達はカルバハルの左翼へ突撃していった。

 

ベニート「新手か。

ゴンサロ様が落馬したとて、こちらの戦況は有利。

撃てぇ!!!」

 

ガブリエル「くっ、思う様に進めぬ。」

 

パントーハ「ここはメルカド様の軍との連携が取れるまで、持ち堪えるしかないな。」

 

ガブリエル達の突撃はカルバハル左翼を苦しめはしたが、銃兵の脅威からそこまで踏み込めず膠着状態となった。

 

パントーハ「ガブリエルよ。

私達ならば、ここは下手に陣形こだわらない方が良いだろう。

幾つもの島々で戦った日々を思い出せ。」

 

ガブリエル「分かった。」

 

ガブリエルはパントーハ、そしてバカと戦地を駆け抜けた日々を思い出しながら、自身の行なって来た戦い方と人生がリンクしていくのを感じていた。

 

それは明確な世界から混沌とした世界、

その両方を目まぐるしく浴びせられ日々と、

今は残された友と慣れ親しんだ無秩序な軌道による戦いを重ね合わせていく。

 

ベニート「なんだこやつらの戦い方は?

まるで次の動きが読めぬ・・

これでは標的への標準を絞るのが難しい・・」

 

ガブリエルとパントーハの阿吽の呼吸の連携は

無邪気な天使たちが思うがままに飛び回る様に

カオスの中に美しささえ見出していた。

ガブリエルとパントーハの無形の包囲網は、

次第にベニートの騎兵隊や銃兵隊を追い詰めていった。

 

ウジョア(ほう。温室育ちの小僧の戦は、戦場で磨かれた流動的で掴みどころのないものとはな。北の島々の征服に携わって来ただけはあると言う事か。)

 

ついにガブリエル達はベニート軍を壊滅させ、メルカド達の主力騎兵隊と合流する事になった。

 

その傍らカルバハル軍は、迅速にゴンサロ達を庇う様にして既に体制を立て直していた。

 

カルバハル「ヒョッほう!

あのお坊ちゃんなかなか面白いモノを身につけておるわ。

されど、あやつらの事はもはやワシの頭の中に溶け込んだわ。

お坊ちゃんにエルシッド、まだまだ何か意外性があるのであろうか?」

 

「進めぇい!!」

メルカド達は相手の歩兵隊に対して突撃を試みた。

 

カルバハル「歩兵を下げよ、槍兵前へ。」

 

パントーハ「やつら、素早く兵種を入れ替えて来たぞ。」

 

他の兵が怯むなくガブリエルとパントーハは果敢に槍兵に突進していた。

 

シュルシュルッ

 

2人の突きを一つの槍で同時にいなすものがいた。

 

ガブリエル「何という、リーチ・・」

そこには槍兵を率い、ベナルカサルやジロンと渡り合った長身の青年ニドスが無機質な眼差しで

ギリシア彫刻の様に佇んでいた。

 

パントーハ「気を取られるな!!

来るぞ!」

 

ドンドンドン!

 

ガブリエルはパントーハの言葉に我に返り

咄嗟に身を屈めて銃弾を躱した。

 

ぐあー

 

パントーハ「まずい・・なんという手際の良さと連携・・

しかも、こちらの兵が少ない様だが・・」

 

ガブリエル「?!

ウジョア殿達はどこにいったのだ?」

 

ガブリエル達と一緒に突撃した筈のウジョアの部隊は

そこにはいなかった。

雌雄を決する大事な場面での突撃にも関わらず、

勢いは削がれていた。

 

槍兵により騎馬が怯んだ所に、トドメを刺す様に銃弾が撃ち込まれ、そこに歩兵が雪崩れ込む。

 

かと思えばまた歩兵が下がり、誘い込まれたセンテノ軍は再び同じパターンで餌食になっていった。

たちまち兵数が減り、350人もの兵があっけなく死傷した。

 

  「お迎えに参りましたぞ、世間知らずの小鳥様!

貴方の心がワシの鳥籠で寂しがっておられます。」

 

ガブリエルは聞き覚えのある声に青ざめた。

 

突如ガブリエルの前に、

見たことのない衣服を身に纏う

肌の黒い者たちを引き連れ

カルバハルが現れた。

 

 

カルバハルは軍を指揮してたと思いきや、

神出鬼没に現れ、負傷兵を容赦なく刈り取っていた。

手斧や鉈など凶悪さを増幅される武器を携え

突如現れた異質な集団を前に

センテノ兵は思考が止まっていた。

 

そして、センテノ兵は何もする事も出来ぬまま命を奪われてゆく。

 

ガブリエルもまた心淀ませた相手との再会で

その場で茫然としている。

 

パントーハ「友よ!

過去に囚われぬな!

今を生きよ!!」

 

カルバハル「名言ですな!

ワシがその言葉貰っても良いかの?」

ガブリエルとパントーハは

たちまち馬上からカルバハルの従者達の縄で縛られ

身動きが出来なくなった。

 

彼ら2人捕えられた頃には、勝敗の行方は明白となっていた。

 

「ゴホッ、ゴホッ。

確かに我が軍が押していたはずだが・・

またもやカルバハル殿にしてやられたというのか・・

敵ながら見事よ。」

センテノは表情には出さなかったが、

ゴンサロ軍の完全勝利と言える光景に愕然としていた。

 

「センテノ様、早く籠から降りて、馬でお逃げ下さいませ!」

 

「おい、敵の総大将が馬で逃げるぞ!」

ゴンサロの側の兵の何人かはセンテノの追跡を試みた。

 

ブンブン!

ボゴワッ!

ボッボコっツ!

 

カルバハル「ハハッ。またエルシッド様か笑

相変わらず総大将の盾となるのが好きじゃのう。

しかし今回は敢えてではなく

追撃は無理そうじゃわ。」

 

初めのメルカドの突進により

すでにゴンサロの主力騎兵は敗走していた為、

センテノへ追いつくのは難しかった。

 

「もはや、この戦場でワシを驚かせてくれることはなさそうじゃのぅ。

後はお前らの好きにせい。」

カルバハルはまるで全てに興味を失ったかのように地に寝そべり、居眠りを始めた。

勝っても負けても、大した意味などない――そんな虚無が、彼のまぶたを静かに閉じさせているかの様に。

 

パントーハは手を後ろに回され捕縛されている最中、カルバハルにただただ驚愕していた。

(これがカルバハルか・・常軌を逸した戦さの天才・・)

 

 

一方、未だゴンサロは最初の立ち合いの壊滅的なインパクトから立ち直ってなかった。

 

ゴンサロ「おお、俺はこんな所で終わるのか・・」

 

ジロン「ゴンサロ様、

どうやら我が軍の勝利の様ですよ。」

ゴンサロ「もう、腹を決めるしかないか・・」

 

ジロン「ですからゴンサロ様!

既にカルバハル殿の軍がセンテノ軍を完膚なきまで叩きのめしておりますよ!」

 

ゴンサロ「何だと?!」

 

ゴンサロは、辺りを見回しやっと状況が飲み込めた。

死体の山となっているのは、センテノ軍の方だという事にやっと気付いた。

ゴンサロ「おお・・神よ、なんという勝利だ!神よ、なんという勝利だ!」

 

ゴンサロは息を吹き返した様に、檄を飛ばした。

「野郎ども!追撃だー!」

 

ゴンサロ軍は夜遅くまで略奪を繰り返し、金、銀、家畜などのセンテノ軍の富を奪えるだけ奪い取った。

また、敵味方問わず身に付けているものも残さず拾っていった。

 

ギャハハ!!

金だ!銀だ!!

 

この腕輪なかなか外れんなぁ。

 

手首ごと切るか!!

 

ギャハハ!

 

コルドバ(なんだこの光景は?物資の補給は最悪良いとしても、まるで野盗どもではないか・・)

「なんとも浅ましい光景ですな。」

コルドバの側には全身黒づくめの男が立っていた。

 

コルドバ「その声は!!

あの時の・・何故こんな所に・・」

 

「実は貴方様へお話があって参りました。

もしこの有様に肩を落としておられるならば、

明後日昼この場所に来てくだされ。」

 

そういうと男はコルドバに紙を渡した。

 

「それでは後ほど。」

男は気配なく、戦場から姿を消した。

 

 

-1547年11月サンティアゴ アロンソ邸-

「アロンソ様、あの方から手紙が届いております。」

 

「ご苦労。」

漆黒の四騎士の1人アロンソ・デ・コルドバはキラクラの戦い以降、サンティアゴに居を構えていた。

 

ガスパルの健闘とは裏腹に、片翼を担ったアロンソはカラコール兵の失態などもあり、評価を下げていた。

〈フランシスコ・ピサロ様に大恩ある我らは今こそ一丸となるべきです。まもなく明言されることでしょうが

、バルディビアは新副王に加担し、ピサロ一族を滅ぼしにかかるとの事です。ピサロ一族への恩を仇で返す、不届者を許すわけにはいきません。私の情報によると、来月バルディビアは側近達を連れてサンティアゴを離れ、ハキハワナへ向かうとの事。その時、事を起こすのでよろしく頼む。~より〉

 

アロンソは手紙を読み終わり返事をしたためた。

 

アラウコの叫び/本編

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