第22話「イニャキートの戦い」

ヌニェスはトゥンベスで兵を集い、
サン・ミゲル・デ・ピウラ を占領し南下を続けた。

一方ゴンサロはその報せを聞き、
自ら軍を率いてリマを出発し、

北上してトルヒーヨに到達する。

 

ヌニェスは更に進軍すると、

カルバハルがそれを向かい打つ事になった。

 

 

-ピウラ-
ヌニェス「くっ、なんて精強な兵なのだ・・
数の上ではそこまで大差はないが、
こうまで圧倒されるものなのか!」

 

「今回の戦には、あのフランシスコ・デ・カルバハルが指揮をしているらしい・・」

 

「奴に捕まったら最後、何をされるか分からない・・」

 

メルカド「こちらの兵は大分奴に恐れを抱いておるな。
しかしそれだけではない、
銃を上手く使った戦術、洗練された騎馬兵、
戦慣れし過ぎている・・」

 

それもそのはずだった。
フランシスコ・デ・カルバハルは、

本土でのパビアの戦い、

ローマ劫掠などのイタリアとの戦争など数々の戦地を経験していた。

 

また、ここまで経験豊富な軍人は

あのペドロ・デ・バルディビアを含め

数えるほどしか新大陸にはいなかった。

 

新大陸には渡ったスペイン人のほとんどは

新大陸での軍事経験しか持たぬ者ばかりであった。

 

メルカド(あの時、我が命尽きようと、あやつを葬るべきだったか・・)

「次々と我が軍の主力が殲滅されております!
このままでは・・」

ヌニェス「ぬかったわ・・
この戦況・・もう逃げきれぬ。」

 

メルカド「ヌニェス様、私に殿をお任せください。

現状逃げ切れる可能性も薄いですが、微かな可能性に欠けましょう。
貴方さえ生きていれば、強固な軍を再建出来ます!」

 

ヌニェス「分かった。
どうせこのままでは、壊滅するのは明白。
一縷の望みに賭けよう。」

 

ヌニェス軍は撤退の動きを見せた。

 

ドッ、ドッ、ドッドッドン!

 

カルバハル「ヒョッホー!
一斉射撃の戦術も大分形になってきたのぅ。
ゆくゆくはこのスタイルがより洗練され、
世の中に主流になっていくじゃろう。」

 

「カルバハル様、敵が撤退を試みている様です!」

 

カルバハル「そうか、やつら今更身の程を知ったかのぅ。
しかし判断が遅すぎる、流石お役人様だな。
者ども、奴らを生かすも殺すも我らの自由よ!
なぶり殺せ!!」

 

ギャハー!!

 

ヌニェス軍はカルバハル軍にいい様に削られてゆく。

 

「ほうら!
必死で逃げないと、人生終わっちまうぞぉー!」

 

ギャハハ

 

ブン!

ボゴワッ!

その時、意気揚々とヌニェス兵を追いかける

カルバハル兵の1人が爆発する様に飛び散った。

 

カルバハル「この音、つい先日も聞いたかのぅ。」

 

メルカドは無機質な面持ちで、
無心でカルバハル兵を駆逐している。

 

カルバハル「良い雰囲気じゃ。
ふむーあやつはまだまだ金稼ぎの種となるのぅ。
ここで殺すのは惜しい人材じゃ。」

 

メルカドはカルバハルのじっと見据えた。

 

カルバハル「きゃー恐ろしい御仁がこちらを見てらっしゃるぞ。
ワシはお前たちの命が惜しい、撤退じゃあ!」

 

「お待ちを!!
私があやつを抑え込みます!!
その間にヌニェスの首を!!」

 

カルバハル「確か、お主はカストロ殿のとこの・・」

コルドバ「アンドレス・エルナンデス・デ・コルドバと申します。」

 

カルバハル「より兵の消耗なく勝利するなら、今が時期ではないとワシは見るがのう。
ゴンサロ様の軍が動いてからが本腰じゃろう。」

 

コルドバ「はぁ、そういうものなのですか・・」

 

メルカド「何?
あやつら撤退してゆくぞ?
私が食い止めたとて、多少の時間稼ぎにしかならなかった。
ヌニェス様の本軍壊滅の可能性はかなり高かったはず・・」

 

カルバハル「帰るぞぉ!
さあ、飯じゃ酒じゃー」

 

ギャハァ!

 

 

-トルヒーヨ-
「ゴンサロ様、ヌニェス軍をカルバハル様が見事打ち破りました!」

 

ゴンサロ「ほう、ヌニェスは捕えたのか?」

「いえ、それが手練の騎士が殿として立ちはだかり、追撃しきれなかったの事です。」

 

ゴンサロ「何?カルバハル程の者が食い止められたと?」

 

「ハッ、エルシッドを彷彿とされる騎士の様であったそうです。
その者は先のリマ入場の際、一悶着起こしていた者の様です。」

 

ゴンサロ「カルバハルに手傷を負わせたという例の奴か。
圧倒的な戦になると思ってはおったが、まさかそれ程の者がいるとはのぅ。」

 

「と、カルバハル様からの伝言です。
物資の補充と、報酬をよろしく頼むとの事です。」

 

ゴンサロ「分かった。
まあ、ヌニェスはどちらにしても風前の灯よ。
一騎士の力など、近代戦争の前では水面の小さな波紋に過ぎぬわ。
エルシッドも結局は、不幸な最後であったしの。」

 

ヌニェス軍はカルバハル軍の強大さに退却を余儀なくされた。

戦の勝敗はカルバハルの手中にあったにもかかわらず、
メルカド軍を戦地に残し、カルバハルは撤退していった。

 

 

-リマの酒場-
コルドバは1人酒場で呑んでいた。

 

「此度のカルバハル様の追撃をやめた事に疑問を持っておられるのですな?」

 

コルドバ「何奴?」

「シッ!私は通りすがりのただの戦通でございます。」

 

コルドバ「ふむ。その戦通とやら先の戦をどう見る?」

 

「カルバハル様の不可解な行動の裏には、戦争を長引かせ、より私腹を肥やす意図があったと思います。」

男はあの状況がいかに有利であり、

カルバハルという男がどの様な者であるか、

コルドバに説いた。

 

「ただし、これはあくまで私の考えであります。」

 

コルドバ「なかなか説得力のある講釈であった。
貴殿、名はなんと申す?」

 

「人は私の事を<戦場のマエストロ>と呼びます。
只今、隠遁している身の為、
私に会った事は口外せぬで頂けると有り難い。
それでは・・」

 

コルドバ「な・・」

 

コルドバ(まさか実在するとは。ただ、あの様な的確な分析只者ではないだろう・・)

 

 

-新大陸北部-
ヌニェスは北へ撤退し無事キト(現エクアドルの都市)へ辿り着くが、
直ちにキトを放棄し北のポパヤン(現在のコロンビアの都市)を拠点とした。

そして、自身の忠実な指揮官セバスティアン・デ・ベナルカサルと合流した。

体制を立て直し、ゴンサロ軍と決着のつかない小競り合いが繰り返したが、
猜疑心の強いヌニェスは自身の配下3人を処刑してしまう。

 

それに乗じてゴンサロは偽の情報を流し、
ポパヤンで固く守っていたニュネスを出陣させる事に成功する。

 

ヌニェスはキトから北東へ3リーグ離れたグアイリャバンバ川の畔にゴンサロ軍が駐屯しているとは知らず、進軍した。

 

ディエゴ・センテノ軍、メルカド軍と

交戦中のカルバハル軍の援軍として
向かっているはずのゴンサロ軍が

別の場所で潜んでいる事を、

ヌニェスが知った時には既に手遅れとなっていた。

 

ベナルカサルはゴンサロ軍の位置があまりにも有利である事を見抜くと

迂回しながら小道を通りキトを目指す事を進言した。

ヌニェス軍はゴンサロの腹心ペドロ・デ・プエリェスが

寡兵で守るキトを奪還に成功したものの劣勢は変わらなかった。

ヌニェスは防衛戦を不利と判断し、

結局キトからうって出る事にした。

 

両軍は1546年1月18日にキト近郊のイニャキートで最終決戦を迎える事になる。

 

 

-イニャキート-
ピサロ「おい、野郎ども!戦って自由と命と財産を守れ!」

「オオォ!!横取りされてたまるか!」

 

ゴンサロは谷を見下ろす丘の上に部隊を配置していた。総勢700人程、うち200が銃兵、150人が騎兵隊。

 

カルバハルが不在の為、ペドロ・デ・プエリェスがゴンサロの副将を務めた。

彼は勇敢ではあるが、野心家で独断的で悪名高い人物であった。

不倫関係の女性にそそのかされて、絞首刑を実行したりと操られやすい側面もある。

 

騎兵隊長の一人にはヌニェスが処刑した

行政官イリャンの兄弟ベニート・スアレス・デ・カルバハルの姿もあった。

 

ヌニェス「私が先陣を切り奴らの槍をへし折る事を約束しよう!
これは神の為の戦いだ、神の為の戦いだ、神の為の戦いだ、神の為の戦いだ」

「オオォ!!神の御意志だ!」

 

ヌニェスとベナルカサルが率いる400人強、

その内騎兵隊は約140人と引けをとらない数だった。

 

騎兵隊長にサンチョ・サンチェス・ダビラ、

槍兵中隊長にフランシスコ・エルナンデス・ジロン、
弓兵隊長にフワン・デ・ゲバラなど名のある者が指揮を執る。

 

戦いはゲバラ隊の一斉射撃で始まった。

 

ヌニェス「きええええぇぇ!!」

ヌニェスは宣言通り誰よりも早く騎馬隊を率いて駆け出し、
プエリュスの陣地へ突っ込んでいった。

 

ヌニェスに矢の雨が降り注ぐが、一つもかすりはしなかった。

 

「おお、やはり我々には神の御加護がある!!」

 

ダビラはヌニェスの奇跡の様な突進に十字を切った。

 

「おいおい、あの爺さん正気か
先陣を切って向かってくるぞ!
まるでカルバハル様みたいだ・・」

 

プエリュスは驚いた様子ではあったが、
ゴンサロと共に戦場を渡り歩いてきただけに、臆するほどではなかった。

 

ヌニェス「神の為の!神の為の!神のー!!!」

 

「あのお役人、王様のお墨付きだけあるな。」

ジロンは辺りが盲信的に盛り上がる中、冷静に戦況を眺めていた。

 

「プエリュス様、あの死に急いでる爺さんは私めにお任せを。」

腕に自信のありそうな大柄の男が名乗りを上げた。

 

プエリュス「モンタルボか。
お前が行く程の相手ではないが、
あの勘違いした爺さまを楽にしてやれ!」

 

「ハッ!」
アロンソ・デ・モンタルボという生粋の武人で、
プエリュス隊の中でも1、2を争う猛者である。

 

タカタッ、タカタッ!

 

モンタルボは一目散にヌニェスに馬を走らせた。

 

ダビラ「皆の者!遅れをとるなぁ、

ヌニェス様に続けー!」

 

オオオォォ!

 

齢50になる文官の気迫にヌニェス軍の士気も高まった。

「うぉりゃ!」

 

モンタルボの重そうなハルバートがヌニェスに迫る。

 

ヌニェスは背筋を伸ばし構えた。

 

モンタルボ(こやつ、思ったより上背があるな・・) 

 

ヌニェス「ホワァ!」

モンタルボ「何!あんな所から伸び・・」

 

ドシンッ!

 

ヌニェスの長い腕から繰り出させる槍の刃は眩しい程に鋭く研がれていた。

 

ハルバート振り下ろしよりも早く、

モンタルボを首を貫いた。

モンタルボの巨体は馬上から、

後方に突き飛ばさるように落下していった。

 

ヌニェス「神の為のー!!」

 

ヌニェスの一騎打ちの勝利にさらに兵たちは高揚してゆく。

「神の為のー!」

 

ヌニェス軍の士気はさらに爆発的に高まり、

ヌニェスの叫びを連呼しながら突き進んでいく。

 

まるで自分たちが神に護られてるが如く、

劣勢の恐れを忘れ前へ前へと。

 

「何やら向こうが騒がしいな。
むっ!アイツは!我が兄弟の仇!!」

 

ベニートはヌニェスがプエリェスの陣へ突っ込んで行くのに気付いた。

 

ベニート「ぬぬぬぬ・・じじいめが調子に乗り追って!!
わが軍の標的はあやつだ、あいつを嬲り殺しにしてくれようぞー!」

ベニートは持ち場を離れ、ヌニェスに部隊を差し向けようとした。

 

ドシュドシュドシュ!

 

「そうはいかぬ!」
立派な髭を蓄え、幾つもの刃物傷がある鎧を纏った騎士が

ベニート兵たちをあっさりと葬り去った。

 

ベニート「くっ・・我が側近たちが!
しかし、相手が悪い・・こやつは・・」

 

騎士の名はベナルカサル。

あの堅物で猜疑心の強いヌニェスが最も信頼する人物であり、
南アメリカ大陸北方で多くの功績を残した傑物である。

 

「ベニート様、私めにお任せを・・」

恐ろしく長身で容姿端麗の騎士が、

ベナルカサルの前に立ちはだかった。

 

名をゴンサロ・デ・ロス・ニドスといい、

妹たちを連れて再び新大陸へ戻ってきた若者である。

 

ベニート「おお、こちらにはニドスがおる
相手はあのベナルカサルだ!心してかかれ!」

 

カン!カン!カン!

 

ニドスはベナルカサルに遠い間合いから攻撃をしかけるが、
上手くいなされ続けた。

 

ニドスは劣勢にも関わらず、
顔色一つ変えず標的を真っ直ぐに見つめている。

ベナルカサル「貴君のような恵まれた者と戦うのは

初めてではないのでな。」

 

ベニート(まずいな・・ニドスが徐々に圧されてきておる・・)

 

パンッパンッパンッ!!

 

その時だった・・
戦場の至る所で銃声が響き渡る。

 

「・・参った。」
ベルナルカサルは身体の数か所に被弾し落馬した。

そこへニドスが駆け寄り、

ベルナルカサルの喉元に槍を突き付けていた。

 

「サンチョ・サンチェス・ダビラ様討ち死にー!
フワン・デ・ゲバラ様討ち死にー!」

 

戦場のあちこちで

ヌニェス軍の者たちの訃報が飛び交った。

銃兵隊の中にはベルガラ親子の姿もあった。

 

ゴンサロはただ丘の上からニヤリとした笑みを浮かべている。
「バルディビアめ、良い手駒を持っておるな。」

 

両軍の騎兵同士の激突は一見均衡して見えた。
しかしその隙にゴンサロは密かに銃兵隊に指示を出し、
相手騎兵の側面に回り込み一斉射撃をさせた。

 

混戦状態にも関わらず、

精度の高い射撃により、
ヌニェス陣営の主要な者たちが無力化されていった。

 

ものの数秒の間に

戦いのバランスは一気に崩れ、
それに乗じて歩兵部隊が詰め寄り
単純作業のようにヌニュス兵たちを壊滅させていった。

 

ヌニェス「ふおりゃ!!」

ヌニェスは勝敗の見えている戦いに腹を決めたのか
せめて副将だけでもとプエリェスの元へ突っ込んで行く。

 

(参ったなぁ、こりゃ・・
お役人殿はこの状態でもまだ戦うおつもりか?)

「ん・・なんだ?」

ジロンの前に細長い影が覆いかぶさった。

先ほどベナルカサルと戦っていたニドスであった。

 

ジロン(こいつは・・間合いを置かれては終わる・・最初の立ち合いが肝だな) 

 

ニドスは均整の取れた能面の様な顔立ちで構えもせず直立している。

 

ジロンは振り向きざまに直ぐに踏み込むと、ニドスの懐に入った。

 

ジロン「もらった!」

 

すかさずニドスの脇腹に剣を突き刺そうとした。

 

ジロン(何?!)

ジロンの剣が寸での所で止まる。

 

ニドスは槍を器用に自身の足元の方に突き刺していた。

そしてジロンの前腕と腿辺りにニドスの槍が接触しており、
ジロンは身体の構造上それ以上剣を押し込む事が出来なくなっていた。

 

ジロンは呆気にとられいる隙に、

ニドスは肘を振り下ろした。

 

ゴッ! 

 

ニドスの肘がジロンの顎に入り、

ジロンは地面に倒れた。

 

ベナルカサル、ジロンを初め主要な者たちはほぼ無力化された。

 

「グハッ、ヌニェス様・・」

一方ヌニェスの方は、護衛の最後の一人も力尽き
ヌニェスの防具も意味を成して無い程ボロボロになり
絶体絶命の状態となっていた。

ヌニェス「はぁ、はぁ、これは神の為の戦いだ・・」

 

「かみかみうるせぇな。そろそろ息の根を止めてや・・」

ビュオッという轟音と共に
ヌニェスは槍で相手をひと突きで絶命させた。

 

プェリェス「しかしあの爺さん突きしかできんのか?
どこまでも真っ直ぐにか・・堅物らいしわ。
やれ。」

複数のプエリェス兵が一斉にヌニェスに襲いかかった。

 

ヌニェスのどこにそんな力が残っているのか
闘志を漲らせ立ち向かう。

 

迫り来るプエリェス兵の攻撃を槍で受け止めようと、両手を上げる。

 

ガクンッ

 

その時だったヌニェスの膝は事切れた様に
曲がり、体勢を崩した。

 

バキッ!!

ヌニェスの槍は遂に折れた。

間髪入れずに
エルナンド・デ・トーレスという無名の者のメイスが
ヌニェスのこめかみに命中した。

 

「か、かみよ・・」

 

ヌニェス側は300人に対し、ゴンサロ側の死傷者は7人だった。
ヌニェス軍の何人かは絞首刑やチリ追放となったがベナルカサルやジロンは恩赦を受けた。その場にカルバハルがいなかったのは、彼らにとっては幸運だった。

べニート「規則だからやっただぁ?

それは人ではない。

意思を持たぬただの道具よ。
道具は我等が使うためにあるもの。
逆に燃やすも壊すも我等の意思次第じゃ。
どうやって処分しようか?」

 

ベニートはヌニェスの喉元に剣を突きつけ、
侮辱的な言葉を浴びせた。

 

プエリェス「ベニート殿やめよ!
既に捕られた者に対して、

手を下すのは卑劣な行為であろう。」

 

べニート(コイツがそんな事言うのか?体裁としてなのか?)

 

べニート「では、せめて私めの奴隷に死刑執行をさせて下さい。」

 

何を持って卑劣なのかはその時代による。
刑が執行されてもベニートは気が収まらず
戦利品としてヌニェスの髭から羽を作り帽子に付けた。

その後勝利を示す為、ヌニェスの首を杭に刺してパレードを行った。
ひと段落した所で、ゴンサロはヌニェスの首を柱から下ろした。

 

ゴンサロ「お前らの気持ちは分かる。


ただな、俺達は仕方なく戦ったんだ。
仮にも国から派遣されてきた要人には違いない。
丁重に葬るぞ。
ミサを行い、死を悼む。」

 

ゴンサロ兵「はぁ・・」

 

こうしてスペイン政府と新大陸のコンキスタドールとの歴史的戦いであるイニャキートと戦いは幕を閉じた。

 

ゴンサロたちの力の強さにより植民地の喪失を恐れたスペイン王室は、新法を弱め、エンコミエンダを復活せざるを得なくなった。

 

その後、ゴンサロはパナマも占拠し、エクアドル、ペルー、チリと支配地域を拡大する事になる。

その範囲は、インカ帝国や異母兄のフランシスコ・ピサロを超える地域を収めるまでになった。
またパナマと本国の航路を遮断し、権力を強めていった。

 

-ペルー-
ジロンは黒い服に身を包み、カールがかった髪が髭まで繋がる独特の雰囲気のある男に話しかけた。

 

「アントニオ・デ・ウジョア殿ですね。
お初にお目にかかります。
フランシスコ・エルナンデス・ジロンと申します。
ゴンサロ殿に進言してくれたのは貴方とお聞きしております。
ありがとうございました。」

ウジョア「丁重なご挨拶、恐縮です。
本来は私から挨拶に伺うべき所なのに。
ジロン殿とベナルカサル殿の御高名はこの新大陸で轟いております。
コンキスタドールの宝である御ニ人に恩赦があるのは当然でございます。」

 

ジロン「確かに、昨日の敵は今日の友。
この新大陸での立ち位置は目まぐるしいものですね。
実際、先日まで共に戦ったベナルカサル殿とも
以前は敵対する関係にありました。」

 

ウジョア「おっしゃる通りです。
ただ、優れた人物は生き残るべきです。」

 

ジロン「光栄です。
ヌニェス殿の措置も、もしやウジョア殿が?」

 

ウジョア「ハハ」

 

「ジロン様!ゴンサロ殿がお呼びでございます!」

 

ジロン「分かった!すぐゆく!
ウジョア殿、今度改めて酒でも酌み交わしましょうぞ!
それでは。」

 

ジロン(ウジョアはゴンサロをなぜここまで動かせる?バルディビアとはそれ程の者なのか?)

ジロンはウジョアの部屋を後にした。

 

 

ウジョアは書斎で、ふみを書き始めた。

<旦那様、言われた通りベナルカサルとジロンを救う事に成功しました。
ベナルカサルに関しては腹の底がなかなか見えません。また、負傷と裁判を理由にゴンサロ達とも距離を置いております。おそらくゴンサロと政府の戦いにも今後介入しないでしょう。

 

ジロンは我々の良き協力者となる事でしょう。
容量が良くはあるが、人を信用しやすく、かつ直接的な話も出来る人物とみました。きっと話が早いです。

ゴンサロ殿に関しては・・・>

 

 

※ベナルカサルとジロンは、なぜ恩赦があったのか
詳しい理由は分からない。
ただ、この2人はいずれも歴史に名を残す事になる。
ベナルカサルは政治力に優れ、政府、ピサロ一族、アルマグロ一族との争いにも巻き込まれながら、上手い立ち回りをし名を残した。
また、近代のコロンビア大統領が末裔にいる程、繁栄を極めた一族となった。

アラウコの叫び/本編

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