🔴第14話「交流」

-1543年 クスコ近郊/森林地帯-

カスティニャダ「ロレンツォ用心しておけ。

この辺りは道はあるが視界が悪い。」

 

ロレンツォ「そうですね。

あのヤナコナの感じを見ても、ピサロ様が暗殺された余波がまだありそうですしね。」

 

エレロ「ああ、ここらで見慣れぬスペイン人はいきなり襲われかねないですね。」

 

カスティニャダ「ロレンツォ、お前には難しいかもしれぬが、なるべく襲って来た者を殺すなよ。

よく相手の殺気があるかないか見極めろ。」

 

ロレンツォ「!

物凄い殺気がカスティニャダさんに向けられてますよ。」

 

赤い影がカスティニャダに襲いかかった!

 

ガキン!

カスティニャダは赤い影の攻撃を受け止めた。

 

カスティニャダ「女・・待てっ!」

 

殺意に満ちた眼差しで、カスティニャダを睨みつけている。

 

赤い影の主はイネス・スワレスだった。

 

カスティニャダ「これが例のサンティアゴの女か?」

 

ガンガン!!

 

カスティニャダ(凄まじい打ち込みだな。)

 

カスティニャダは敵意のない事を伝えようと試みるが、息を付かせぬイネスの攻撃を防ぐのでやっとである。

カスティニャダ「おい・・俺たちは・・」

(ダメだこの女、目がいっている。)

 

物陰からまた1人何者かが姿を現すと、すぐさまロレンツォが襲いかかった。

 

ロレンツォが標的に辿り着く前に、エレロの方に何かが投げ込まれた。

 

エレロは咄嗟に身をかがめた。

 

袋からはパラパラと光るものが溢れ落ちていく。

 

ロレンツォは鋭い一撃を何者かに浴びせ様としたが、卓越した技術で相手は攻撃をいなした。

 

 

「これは・・」

エレロは目を輝かせた。

エレロ「おかね!!」

 

金貨が広がっていき、エレロは無我夢中で拾い集めた。

 

エレロ「みなさーん、彼らに敵意はありませんよー」

 

エレロは叫んだが剣の重なり合う音で、声はかき消されている。

 

さらに物陰から現れた兵士達は、エレロに目掛けて懸けてきている。

 

エレロは金貨を拾いながら、逃げ回っている。

 

辺りは混戦状態と化し、多く者が興奮状態にある。

 

ロレンツォは様々な方向から剣を差し向け、キロガは受けに徹している。

 

キロガ(剣の鋭さが少し抑えられてきたか?

相手は私の所作から、やっと気付き始めたかな?)

 

キロガは口を開きたながら、剣を見える様に落とした。

「貴方がロレンツォ殿ですね。」

 

ボトッ

 

「傘下に入るつもりはありませんか?」

ロレンツォの剣は、キロガの喉元てわピタリと止まった。

 

ロレンツォ「私をご存知で。」

 

キロガ「お噂はかねがね。

私はバルディビア様に仕えるキロガという物です。」

 

ロレンツォ「キロガさん?

あの有名なロドリゴ・デ・キロガ殿ですか?!

カスティニャダさーん!!」

 

しかし、カスティニャダの耳にはロレンツォの声が届かなかった。

 

視界の悪い中での集団と集団の衝突で、大声を上げた所で誰も振り向きもしなかった。

 

キロガ「困りましたねぇ。

今、あのご婦人とやり合ってるのがカスティニャダ殿ですね。」

 

ロレンツォ「そうです。

私どもも貴方がたに加わりたいと思い馳せ参じました。」

 

キロガ「私も貴方がたを仲間にしたいと思っていました。

ただ、今カスティニャダ殿とやりあってるご婦人は、集中してしまうと周りが見えなくなってしまいます・・」

 

カスティニャダ(こやつはいつになったら攻撃の手が緩むのだ?

この剣は・・)

 

カスティニャダは攻撃を捌きながら、イネスの剣の綻びに気付いた。

カスティニャダ(狙ってみるか・・)

 

カスティニャダはイネスの剣へダメージを与える様に防ぎ始めた。

 

イネスは襲って来た時と同じ覇気を保ちながら、変わらずカスティニャダに剣を打ち込んでゆく。

 

ガン、ゴ、ガン、ゴッ、ガン

 

カスティニャダ(そろそろ行けるか?)

 

ガキン!!

 

イネスの剣先が宙を舞った。

 

カスティニャダはそのまま、イネスに牽制のつもりで剣を向けようとした。

 

馬車の中で寝ていたアマルが、異質な空気を感じピクリと動いた。

 

ガッ・・

 

その時、カスティニャダの剣を弾くものが現れた。

カスティニャダ「おまえは・・」

 

イネスの傍から大きな影が浮かび上がり、カスティニャダまで伸びて来た。

 

異質な空気が漂い、辺りの者達の動きが一瞬止まった。

 

キロガ(最終兵器の異様さに皆動きを止めたか。この機を逃してはならん。」

 

パンパン!

 

キロガは手を叩くと、辺りに音が鳴り響いた。

 

「はい、そこまで!!」

キロガは争いあってる者達の動きを止めさせた。

 

イネスは折れた剣で再び向かおうとしている。

 

キロガ「セニョリータ!!

カストロ様の相手をずっとしなくて済みそうですよ!」

 

イネスの動きが止まった。

 

「貴殿の剣はかなりの業物のようですな。」

キロガはカスティニャダに品のある声色で話しかけた。

 

 

 

-バカ・デ・カストロ邸-

カストロ「貴殿がカスティニャダ殿だな。」

カスティニャダ「カストロ様、お会いできて光栄です。」

 

カストロ「貴殿達は南方の部族たちと対峙していたそうだな。」

 

カスティニャダ「はい。ピクンチェ族、マプチェ族とやり合いました。

通常、原住民達は馬や私たちの出立に恐れを抱く者ですが、多くの怯まない者達も散見されました。」

 

カストロ「ほう、厄介なやつらじゃな。

ワシの友人バルディビアは、現在チリ総督の地位にある。

貴君らの経験でバルディビアを助けてやってくれ。」

 

カスティニャダ「はい、私たちもその為にこちらにやってきました。」

 

カストロ「アルマグロ一族とは、親しかったのかね?」

 

カスティニャダ「いえ、私たちの主人はゴメス・デ・アルバラドです。

私たちは一介の傭兵の様な者、特にそこまでかの一族とは面識はありません。」

 

カストロ「あのゴメスと縁のあるものだったとはな。

奴の親戚のアロンソ・デ・アルバラドとは犬猿の仲で、

あの2人には手を焼いておったわ。」

 

カスティニャダ「はあ、その様な間柄だったとは。」

 

カストロ「よく仲裁に入っておった。

しまいには、あやつら決闘までしおって・・

アロンソと会う時は、気をつけよ。」

 

カスティニャダ「ご忠告ありがとうございます。」

 

カストロ「カスティニャダ殿は乗馬は得意か?」

 

カスティニャダ「もちろん、馬から銃まで一通りはこなせます。」

 

カストロ「モンロイはおるか?」

 

モンロイ「お呼びで」

カストロ「カスティニャダ殿、貴君らは騎兵隊として、

このモンロイとバルディビアの所に行ってもらいたい。」

 

カスティニャダ「かしこまりまりました。

モンロイ殿、よろしくお願い致します。」

 

「ロレンツォと申します、よろしくお願いします。」

 

カストロ「貴君らは経緯が経緯なだけに、

良い地位は用意してはやれぬが、

バルディビアは実力のある者は重用する。

尽力してくれ。」

 

カスティニャダ「傘下に加えていただいただけでも、十分でございます。」

 

カストロ「では、ワシの宴を楽しんで行って下され。」

 

カスティニャダ「ありがとうございます。」

 

カストロは、カスティニャダ達の元から離れた。

 

カストロ「キロガ殿、イネス殿はどちらにいった?」

 

キロガ「イネスは今日の件で疲れており、早々に退出しました。」

 

カストロ「相変わらず勇ましかったようだのう。

イネス殿にもよろしくお伝えくだされ。」

 

 

「カスティニャダ殿たちへ紹介したい方々おります。」

モンロイはそう言うと、幾人かが集まるテーブルへ案内した。

 

モンロイ「彼はペドロ・デ・ミランダ、私と苦楽を共にした友であり、頼りになる男だ。」

 

小綺麗な衣服を見に纏う男は、上品に会釈をした。

 

モンロイ「こちらはフワン・バウティスタ・パステネ殿、私たちの船長をしておる。

コロンブスやマゼランなんかよりも信頼できる航海者です。」

 

パステネ「ハハ。モンロイ殿、大袈裟な。

私はただ皆様を目的地へ安全にお運びするだけですよ。」

 

カスティニャダ「我が国の誇りですな。」

 

モンロイ「そして、この方はガスパル・オレンセ殿」

 

ブロンドの髪に髭、青い目、偉丈夫な出立な男が口を開いた。

「よろしく頼む。」

 

ロレンツォ「ガスパル・オレンセ・・もしやあのピサロ様の親衛隊、漆黒の四騎士筆頭のガスパル殿ですか?!」

 

ガスパル「ハハ、ワシの事を知っておられるか。」

 

カスティニャダ「モンロイ殿の周りには名の通った方々が大勢いますな。」

 

モンロイ「いえいえ、私の周りではなくて、バルディビア様の求心力で皆様が集いました。」

 

カスティニャダ「私も末席に加えて頂き、痛み入ります。」

 

カスティニャダ達は、武芸や情勢の話、南方の遠征の話などをして、彼らと大いに盛り上がった。

 

 

ロレンツォ「これって、うまくいったんですかね?」

 

カステ「さあな、あやつらはピサロの流れを汲む者。

ただまあ、何処に行ったって因縁めいたものはつきものだ。

ところで、エレロは何処へ行った?」

 

ロレンツォ「早速あそこで、やってますよ・・」

 

 

エレロ「また、やられましたー

ついてないな、次は全額注ぎ込みます!」

 

「おお、容赦しませんよ。」

 

エレロ「ご心配なく、必ず勝ちますから!」

 

 

 

-1545年7月 南のマプチェの地-

ラウタロまでも消息を経ってはや一年、南の地で大雪を迎えていた。

 

ツルクピチュン「雪だ。

この季節は冷えるね。」

 

ツルクピチュンは、焚き木を移動し始めた。

 

リチュエン「ツルクピチュン様、よして下さい。俺がするんで。」

 

祭事は中止となったが、ツルクピチュンはアレマンデとの戦いで認められ、つい先日戦士に選出された。

 

さらに使役者を持つ権利まで与えられ、リチュエンを選んだ。

 

リチュエン「共同の住居から貴方のとこに移った身としては、主に働かせる訳にはいかないです。」

 

ツルクピチュン「そうか、じゃある程度は頼むよ。

ただ、よそよそしい物言いはしなくていいから。

今まで通りでい欲しい。」

 

リチュエン「分かったよ。」

 

ツルクピチュン「みんなどうしてるかなぁ。

ラウタロ、ナウエル、あの日を最後に遠くへいってしまった・・

近くにいる唯一の友人は君だけだ。」

 

リチュエン「・・・」

 

ツルクピチュン「仲良くやっていこう。」

 

リチュエン「ありがとう、ツルクピチュン。」

 

 

-クリニャンクのルカ-

クリニャンク「今年は雪が深い為、雪解け後に決戦をする事になった。」

 

ルカの中には、アウカマン、タイエル、ガルバリノ、リカラエン、フタウエ、そして高齢の戦士がいた。

 

アウカマン「おそらく決戦の場所はマジョケテ殿の統治するキラクラとなる可能性が高いな。」

 

クリニャンク「近隣の北西からは、このミジャラプエ殿が弓兵を引き連れて参戦する。

ガルバリノは、ミジャラプエ殿の軍に入り補佐してくれ。」

 

ガルバリノ「じいさん久しぶりだな、よろしくな。」

 

ミジャラプエ「ヌシは最近では南の二鷲と呼ばれてるらしいな。

戦場で拝見させてもらうぞ。」

 

ガルバリノ「まあ、期待しててくれ。

じいさんこそ、腕が落ちてないだろうな。」

 

ミジャラプエ「弓の腕ってのは、歳を重ねるほど上がるものじゃ。」

 

ガルバリノ「ほう、楽しみだな。」

 

ミジャラプエ「そう言えば、ここから東の集落でアンゴルという若い長が就任したそうだな。」

 

クリニャンク「左様、アンゴルには従兄弟のマレグアノから声を掛けてもらっている所だ。」

 

ガルバリノ「祭事で圧倒的だったあの若者か。

ということはアンゴルという者も厳しい顔をしてるのかな。」

 

ミジャラプエ「東の山の奴らには声を掛けたのか?」

 

クリニャンク「ここら一帯の長たちは一癖も二癖もある者たちだが、彼らに関してはコロコロという長がいる事以外まだ分かっていない。

アイナビージョの手の者があたっている。」

 

ミジャラプエ「西に関したが、カヨクピルにも声を掛けているとこらだが、今の所報せはないな。」

 

アウカマン「南方に関してはどうなんだ?」

 

クリニャンク「エルネイが道中でプレンに参加を要請する事になっておる。

そちらはおそらくうまくいくだろう。」

 

バサッ

 

「大男たちが現れ、臨戦態勢となっています。

どうやらアウカマン様を呼んでいるようです。」

 

クリニャンク「なんじゃと!」

 

「行ってくる。」

アウカマンが外に出て行った。

 

大勢の大男たちと、衛兵達が槍を構えて対峙している。

 

アウカマン(見知らぬ者たちだな。)

 

アウカマン「私がアウカマンだ。」

 

 

大男の1人がアウカマンに向かって叫んだ。

「我・・グアンコ・・

アウカマン・・勝負!」

 

大男は武器を置き、アウカマンに襲いかかった。

 

アウカマン「なるほどか、力比べをしたいのか。」

 

グアンコとアウカマンは組合力比べを始めた。

 

アウカマン「流石、見かけ通り力強いな。」

 

アウカマンはグアンコの力を受けとめ、組み合いながら語りかけるように力を加えた。

 

次第にアウカマンがグアンコに覆い被さる様に圧をかけていった。

 

グアンコ「ぐおおお・・」

 

グアンコは膝をつき、力を入れるのをやめた。

 

アウカマンはグアンコの手を取り、起き上がらせた。

 

グアンコ「我・・エルネイのともだち・・

主・・リンコーヤ・・

アウカマン・・助ける。」

 

アウカマン「なるほどな。

エルネイがよこしたのか。

おそらく、彼らは力のあるのものに従うというわけか。」

 

ミジャラプエ「リンコーヤの名はワシも知っておるぞ。

ここから南方の少しいった所に巨人族の血を引く者たちが身を潜めているとの噂を聞いた事がある。

その長の名がリンコーヤだ。」

 

アウカマン「そうでしたか。

彼らが加わるのは心強い。」

 

クリニャンク「彼らはアウカマンの隊に加えるのが良さそうじゃな。」

 

マプチェ連合軍に、ミジャラプエとリンコーヤの兵が加わり、着々と戦の準備が整ってきた。

 

 

-1545年 サンティアゴ-

マルコスは剣を抜き、ラウタロに飛びかかった。

 

ラウタロは落ち着いた眼差しで、マルコスを迎え打とうとしている。

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