🔴第12話「傑物の交錯」

ラウタロが生まれた約100年程前にヨーロッパで生を受け世を震撼させた人物がいた。

 

名をヴラド3世といい、現代ではドラキュラ、串刺し公、ヴラド・ツェペシュという名で知られている。

 

強国オスマン帝国との抗争に敗れ、彼の父ヴラド2世は従属する事になった。

 

その際、ヴラド2世は13歳の若さでオスマン帝国の人質となった。

 

そして一説にはオスマン帝国が将来ワラキア公国(ルーマニア)を操る為の手駒として、彼に英才教育を施していったとも言われている。

 

ヴラド2世は強国の戦を学び吸収しながら、従順にオスマン帝国に仕えていった。

 

オスマン帝国により家族が殺され、ヴラド3世はルーマニアの地の領主となり、オスマン帝国の指示の元で多額の金を支払続けた。

 

オスマン帝国の要求はさらに増長してゆき、遂には領内の子供をオスマン帝国の兵士として差し出せてと指示してきた。

 

ついにヴラド3世は従順な下僕を運命を捨て去り、オスマン帝国の使者を串刺しにし宣戦布告をする事になる。

 

オスマン帝国のスルタンであるメフメト2世は、反旗を翻したヴラド3世に向けて進軍を始めた。

 

オスマン帝国とワラキアの戦力は圧倒的な格差があったが、少年の時にオスマン帝国から学んだ事を生かし、強大な敵を苦しめる事になる。

 

ブラド3世は真っ向勝負はせずに、夜襲やゲリラ戦を仕掛け、オスマン帝国に小規模の打撃を与えていった。

 

とは言え、オスマン帝国の兵力は依然として強大で進軍は止まらなかった。

 

しかしオスマン帝国は、道中で衝撃的な状況に出くわす事になる。

 

それはオスマン帝国兵が串刺しにされてる姿が永遠と広がり地獄絵だった、その数2万人余り。

 

オスマン帝国の兵たちは常軌を逸した光景に震え上がり、著しく士気が下げた。

 

さらに追い討ちをかける様に、ヴラド3世は自らの首都を破壊する焦土作戦を展開し、物資をも渡さない徹底した執念を見せる。

 

極めつけは、ルーマニアの地でペストが蔓延していたと流言飛語を流し、より恐怖を煽った。

 

ブラド3世の常軌を逸した戦い方に、オスマン帝国は兵だけを消耗し得たもの恐怖だけだった。

 

オスマン帝国の兵たちは、度重なる事態に恐れをなし、逃亡兵が後を立たない状態となった。

 

この様な経緯でヴラド三世は、串刺し公として、恐怖で名を轟かせた。

 

ここにまた強大な脅威を前に、様々な点でブラド3世と酷似した半生を送っていった少年がいる。

 

ラウタロ「串刺し公か、そんな悍ましい者がこの世にはいるもんなんだな。」

 

ラウタロは本を閉じた。

 

「騎士の風上にもおけないやつだよ、ほんと。」

ラウタロに熱っぽく語る少年の名はマルコスといった。

 

マルコスはラウタロの教育係を任された者の1人である。

 

スペインにおいて清廉潔白な人物であり、かつ騎士道を重んじる聡明な少年であった為、この任に抜擢された。

 

マルコス「しかし、ラウタロは凄いね。

すでにスペイン語まで読める様になるなんて。

僕なんてイタリア語すら未だに良く分からないよ。」

 

ラウタロ「得手不得手はあるだろうからね。

僕は君には剣でまるで敵わないだろう?」

 

マルコスはやや得意げな顔をしている。

「僕は気が強いだけさ。

ラウタロ、君だって気持ち一つで全然変わってくるよ。」

 

ラウタロ「うん、僕にマルコスの心の強さが少しでもあればなぁ。」

 

マルコス「でも無理もないさ。

そんな野蛮な暮らしをしていたなら、気の優しいラウタロなら辛かっただろうな。

今でも最初に君がここへ来た時を思い出すよ。」

 

 

-数ヶ月前 砦付近(1544年 ラウタロ11歳)-

バタッ

 

マルコス「!

あそこで人が倒れているぞ!」

 

そこには傷だらけのラウタロがいた。

 

マルコス「おい!大丈夫か?

見た所、この辺りの先住民か。

年は僕と同じくらい。」

 

「どうしたんだ?こりゃ酷い怪我だな。

とりあえず上に知らせてくる。」

マルコスと同じくらいの年で外の警備にあたっていたグディエルという者がマルコスに話しかけた。

 

 

ラウタロが目を開けると、真っ暗な暗室にいる様だった。

 

手には足枷と手枷がはまめられており、側には水の入った器が置かれていた。

 

ラウタロは器の水を一気に飲み干した。

 

「あっ!気付いたみたいよ!」

少女の明るい声が聞こえる。

 

そばかす混じりの愛くるしい少女の名はフワナという。

 

グディエル「おいおい、フワナ。

またそいつを見にきてたのか?」

 

フワナ「大丈夫よ!

鉄格子の中なんだし。」

 

グディエルノ「そんなにそいつらに関心があるのか?」

 

フワナ「だって貴方たちと違って、私は戦場に行かないんだから。

しかもヤナコナ達とも違う珍しい服装してるし。」

 

グディエル「なんだお前?

この薄着の姿に関心があるのか?物好きだな笑

そんなんだったら、俺の肌を見せてやるぞ?」

 

フワナ「何バカな事言ってる笑

私は服のデザインに興味があるのよ。」

 

グディエル「だよな。まさか原住民にそういう関心抱くなんて、狂人ゴンサロも真っ青だぜ。」

 

フワナ「何で下品なの!」

 

グディエル「へいへい、失礼しました。狂女フワナ様。」

 

フワナ「グディエルノ~!!

ほんとに怒るわよ!!」

 

グディエル「ごめんごめん。

愛しすぎて、嫉妬してしまったんだよ。」

 

フワナ「笑笑

よく言うわ。」

 

グディエル「まあ、とりあえず、上に報告してくるわ。」

 

ラウタロはまだボーとしたまま辺りを眺めている。

 

フワナはラウタロに笑顔で鉄格子越しに手を振った。

 

フワナ「あっ、手振ってくれた!」

 

ラウタロは、朦朧としながら見よう見まねで手を振りかえした。

 

 

コツコツ

 

「ほう、やっと起きた様だな。」

オロが兵を引き連れて、鉄格子を開けた。

兵の1人にニナもいた。

 

オロがニナに耳打ちした。

 

ニナがマプチェ語で話した。

「お前はマプチェ族か?」

 

ラウタロ「はい。」

 

ニナ「お前は何をしにここに来た?」

 

ラウタロ「私は下僕の立場の者です。

あちらでの生活に嫌気がさして、逃げていた所です。」

 

ニナ「ほう、非戦闘要員か。

なぜ傷だらけだったのだ?」

 

ラウタロ「実は苛烈な折檻を受けて、それが私に逃亡を決断させました。」

 

 

ニナはオロに耳打ちした。

 

オロ「ふむ。まあ、痛々しい傷がこやつの悲惨さを物語っておるわ。

この者の話はほんとであろう。」

 

オロはニナに耳打ちした。

 

ニナ「ここには遥か海から渡ってきた王国の人々が住んでおる。

この地の荒廃ぶりを嘆き、救いに来て下さったのだ。」

 

ラウタロ「はあ。」

 

ニナ「お前もマプチェ族の暮らしにはうんざりなのであろう。

ここで、素晴らしい文化を学びに生活してみぬか?」

 

ラウタロ「私の様な者を拾ってくださるのですか?

しかし私は腕も立ちませんし、お役に立てるかどうか・・」

 

ニナ「お前らの地では、強さこそ全てだったな。

ここはそんな事はない、お前が役立てるものが何かしらある。」

 

ラウタロ「そんな素晴らしい場所があるなんて、

何でもしますので、どうか私のここにいさせてください。」

 

ニナはオロに耳打ちした。

 

オロ「そうか。これはバルディビア殿の期待に応えられる逸材やもしれぬな。

前の件もある、とりあえず数ヶ月は枷を付けたまま雑用で様子を見よ。」

 

 

-2ヶ月後-

ラウタロはヤナコナの労働者達に交じり雑用をこなしている。

 

「ラ・セレナの建設は順調か?」

 

「はい。ペドロ・デ・ビジャグラ殿とベルガラ親子に任せておりますので、防衛面でも問題ないでしょう。」

 

身分の高そうな男達が作業場の横を通る。

 

彼らはバルディビアとアルデレテだった。

 

「所でマプチェ族のあの小僧はどうしてる?」

 

「確かおとなしく働いてるそうで。

確か丁度ここら・・」

 

アルデレテの話の途中で、割って入る声がした。

 

「お呼びになりましたか?」

ラウタロは片言のスペイン語を話した。

 

バルディビア達は呆気に取られた。

 

「ん?今あの作業場から声がしなかったか?」

 

ラウタロ「今声を出したのは私です。」

 

バルディビア「なんと!こやつスペイン語を話しておる。

確かここきて2ヶ月のやつであろう。」

 

ドカっ

 

アルデレテは、ものすごい勢いで駆け寄りラウタロを殴りつけた。

「こいつ、断り無しにバルディビア様に話しかけるなんて!」

 

「まあよい、アルデレテ。

これは興味深い、こやつと少し話してみたいのう。」

バルディビアは、ゆっくりとラウタロの側に寄って、まじまじとラウタロを見ていた。

 

アルデレテ「しかし・・」

 

バルディビア「お前、なぜワシらの言葉を話せる?」

 

ラウタロ「ここで皆様が話しているのを聞いて、少しづつ言葉が分かってきました。」

 

バルディビア「ほう。確かマプチェ族だったな、お前は。」

 

ラウタロ「はい。」

 

バルディビア「お前達は言語を習得する能力に長けておるのか?」

 

ラウタロ「いえ、マプチェ族は戦闘民族です。

私は戦闘は苦手ですが、物を覚えるのは得意でした。」

 

アルデレテは怪訝そうな顔をしている。

 

バルディビア「ほう。確かに前こづいたあの小僧みたいのが、ほとんどなんだろうな。」

 

ラウタロは眉ひとつ動かさず、考えを巡らした。

(ナウエルの事か?

しかし、今その話を聞き出すのは得策ではない。

まだ、機会はある。)

 

バルディビアは少し間を置き、アルデレテに言った。

「ふむ。アルデレテ、明日ポゾ神父の所にこやつを連れて行くぞ。」

 

アルデレテ「まさか、バルディビア様・・」

 

バルディビア「おまえに新たな人生を与えてやる。」

 

ラウタロ「はあ・・新たな人生ですか?」

 

バルディビア「まあ、明日分かる。

でわ行くぞ、アルデレテ。」

 

ラウタロ「かしこまりました。」

 

 

バルディビア「のうアルデレテ、あやつはは使えるぞ。」

 

アルデレテ「将来の神輿にする気ですか?」

 

バルディビア「察しが良いな。

新法の件もある、先手先手で手を打つ必要がある。」

 

アルデレテ「しかし、いささかあやつの頭の良さが気になります。

2ヶ月足らずで我々の言葉を片言とはいえ話せるなど、尋常じゃありませぬ。

前の一件もありますし、あのマプチェの小僧の様に猫をかぶっているやもしれませぬ。」

 

バルディビア「お前の懸念を分かる。

ただ、コリャスーユの件も見事ワシの思惑通りだったろう?」

 

アルデレテ「はい、結果として見事な采配だったと私も思いました。

しかし、インカの奴らと違いマプチェというのはまだ得体がしれませぬ。」

 

バルディビア「ハハ、心配するな。あやつの経緯は聞いておる。

頭が良いからこそ、野蛮な暮らしに嫌気がさしたのであろう。

きっとそうに違いない。」

 

 

-あくる日-

ポゾ神父「よくぞ、おいで下さいました。

バルディビア様。」

 

バルディビア「ポゾ神父、今日は新たな改宗者を連れてきたぞ。」

 

ポゾ神父「お話は聞いておりまする。

素晴らしい行いですな。」

 

バルディビア「そうだった、これは不便であろう。

おいこいつを外してやれ。」

 

アルデレテ「バ、バルディビア様、流石にそれは・・」

 

バルディビア「良い良い。もしおかしな事をするような、お前の剣で遠慮なく突け。

これはマナーだ、分かるなお前も。」

 

ラウタロ「信頼にも保険は必要だと私も心得ております。

そして、枷を外していただきありがとうございます。」

 

バルディビア「お前は本当賢いのう。

そう言えば、名前は何と言ったかな?」

 

「ラウタロと申します。」

ラウタロは精悍な面持ちで答えた。

 

バルディビア「良い面構えだ。

ラウタロ、此度はワシらの信仰に加わってもらう。

異論はないな。」

 

ラウタロ「もちろんありませぬ。

光栄の限りです。」

 

ポゾ神父「バルディビア様

洗礼名はどうしましょう?」

 

バルディビア「そうじゃなぁ、フェリペが良いな。

ラウタロよ、これからはフェリペ・ラウタロと名乗るが良い。」

 

ラウタロ「ハッ。」

 

「それでははじめますかな。」

ポゾ神父は、ラウタロへ洗礼の儀式を始めた。

 

この日を機にラウタロは、英才教育を施される事になった。

 

 

-サンティアゴ-

サンティアゴではその頃、華やかな酒宴が開かれていた。

 

「ビジャグラ殿、此度はこの様な酒宴に呼んでいただき有難うございます。」

男の名はフランシスコ・デ・アギーレといい、知性と教養も併せ持つ由緒正しい家柄の貴族であった。

 

沢山の女性を侍らせた男は、手を上げると女性たちは席を外した。

「こちらこそ、アギーレ殿が私の酒宴に来て頂けて光栄です。」

 

男はこの酒宴の主催でフランシスコ・デ・ビジャグラといった。

 

名門ビジャグラ家の出身であり、その中でも特に傑出した人物と評判である。

 

アギーレとビジャグラは共に、バルディビアからの信頼が厚く、2人の存在がバルディビア勢力に箔を付けていた。

 

アギーレ「現在ペルーは非常に複雑な状況ですな。」

 

ビジャグラ「いかにも。もし運命の糸が違えていたなら、我等は争う事になっていたかもしれません。」

 

アギーレ「ゴンサロ殿を救出後、ロハス殿と同行していなければ、ワシも反政府軍として戦っていたやもしれぬ。」

 

ビジャグラン「むしろ私はラス・サリナスで敗軍の将となりゴンサロ殿に処刑されかけてましたからね。

その後、紆余曲折を経てロハス殿が貴方と引き合わせてくれました。」

 

アギーレ「ロハス殿はその後北へ、貴方とワシは南へ、そしてワシらはバルディビア様とアタカマで落ちあった。」

 

ビジャグラ「結果として、私達はペルーの複雑な抗争から蚊帳の外にいる。」

 

アギーレ「運命とは分からないものですな。」

 

2人は盃を合わせ、乾杯した。

 

アギーレ「所で、従甥のガブリエル殿がヌニェス殿の軍に加わっておるとか。」

 

ビジャグラ「お耳が早いですな。

あやつは正義感に溢れ、血気盛んな所があって、ほとほと困っております。」

 

アギーレ「それはご心配でしょう。

しかも、今ゴンサロ殿の側近にはあのフランシスコ・デ・カルバハル殿がおられる。」

 

ビジャグラ「なんと!

<アンデスの悪魔>と呼ばれているご老人が・・

ヌニェス殿の軍は危ういかもしれませぬな。」

 

アギーレ「現在、バルディビア様は両勢力の争いには中立の立場におられる。」

 

ビジャグラ「適切な対応だと思います。

ガブリエルの事は気がかりですが、武運を祈るしかございませぬ。」

 

アギーレ「心中お察しします。」

 

ビジャグラ「しかし、ここ数年は本当に目まぐるしかったですね。

アルマグロ様が処刑されたかと思いきや、今度はフランシスコ・ピサロ様が暗殺されるという事態。」

 

アギーレ「暗殺首謀者のエルモソ様ももはやこの世にはいない。」

 

ビジャグラ「アルマグロ様達は戦に敗れて処断されたのは分かるのですが、ピサロ様の暗殺は不可解でしたね。

警備も厳重だったはずなのに。」

 

アギーレ「どうやら凄腕の暗殺者が送り込まれたという噂がある様です。」

 

 

ビジャグラン「ほう・・

して、その者は今はどうしておるのですか。」

 

アギーレ「エルモソ様が処刑された際に、行方を眩ましたと聞いております。」

 

 

-1541年 リマ-

「ピサロ様どういたしましたか?」

 

「く、黒い影・・」

そう言い残しピサロは息絶えた。

 

衛兵の目に人影が一瞬映り消えた。

「何奴?!」

 

衛兵が扉の外に出ると、小柄な者が走っているが見えた。

 

「待て!

誰か、その者を捕まえろー!」

 

衛兵達は何者かを追跡したが見失ってしまった。

 

「ん?どこへいった?」

 

バタ、バタ、バタ

 

突如、衛兵達は眠る様に一人一人倒れていった。

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